本能寺燃ゆ

hiro75

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第二章「性愛の山」

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「帝や将軍に対して無礼だなんていう者もいるが、俺はこの半将軍(細川政元)の言うとおりだと思うぜ。形式なんてもの、糞の役にも立たねぇ。まだ肥やしになる糞のほうが、よっぽど役に立つ。どんなに足掻こうが、世の中、銭なのよ。だから俺は、侍よりも商いをやる。商人の中にも、信や徳が大事だなんて気取っていう奴がいるが、なんてことはない、そういう奴らの方が、大金を目の前に積まれれば、例え女房子どもだろうが売りとばす。銭には勝てねぇのよ」

 八郎は、竹筒から鍋に水を注ぐ。

 しばらくすると、ぐつぐつと沸き上がる。

 それを椀に注ぎ、漱いで、そのままぐいっと飲み干した。

 椀の水を切り、背負籠に仕舞いながら言った。

「俺も、信よりも、銭だ。銭のためなら、親でも女房でも、子でも売る。もちろん、お前らもな。お前は……」、八郎は姉に向かって言った、「……伴天連にでも売る、あいつらは娘を高い金で買って、南蛮に売っているらしいからな」

 権太は、横目で姉を見た。

 姉は、びくりともしていない。

 ―― 伴天連って、何だろう?

    南蛮って、何処だろう?

 わけの分からないところに連れていかれるかもしれないのに、姉は驚きも、不安そうな顔もしない。

 まるで物の怪だ。

 山賊の頭の『ありゃ、いけねぇ!』という言葉を思い出し、その意味が何となく分かった気がした。

「後は、あいつに会えるかどうか、お前の運次第だ。いや、その前に、あいつの火が消えているかもしれんがな」

 いや、姉は信じているのだ。

 ―― 絶対に十兵衛は生きている。

    そして、絶対に会えると!

    うらだって、信じている!

    どこに行こうと、絶対に会えると………………

「お前は……」、八郎は権太を見る、少し考えたあと、「山にでも売るか。お前のような餓鬼を欲しがる腐れ坊主どもが多いからな」

 山が何処かは分からない。

 が、坊主と訊いて、村の和尚を思いだす。

 ふくよかで、にこやかで、権太には優しい人だった。

 あんな人のところなら、姉よりは安心かもしれない………………
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