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第二章「性愛の山」
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この四日に、十五代将軍足利義昭が坐する六条の御所が、三好勢らに強襲されたらしい。
「貧乏公方は無事だったが、奉公衆の何人かが討ち死にしたらしい。その中に十兵衛の名があるとか、ないとか」
真偽が不明なので、確かめに行く途中だったらしい ―― 正確には、商いに行くついでに確かめる、といった具合だ。
歩きながら、八郎は事の顛末を詳しく話してくれた。
昨年の雷無月(十月)に、義昭が織田信長の力を借りて上京、畿内周辺を抑えていた三好勢を一掃して入京し、帝から将軍の宣下を受け、十五代将軍となった。
これは十兵衛に聞いた。
その後、信長は早々に美濃に引き揚げたのだが、これを好機と見たのが、三好長逸、三好宋渭、岩成友通の三好三人衆で、信長に美濃をとられた斎藤龍興とともに、年の終わりごろから将軍方の武将が守る堺の城を攻め落とし、京へと攻め寄せたらしい。
一方の十五代義昭は、六条の本国寺(江戸時代に本圀寺に改称)に立てこもり、三好勢一万余りを迎え撃つこととなる。
―― 味方は二千
敵は一万
この合戦、三好勢が有利!
………………と思われたが、若狭衆山県盛信、宇野弥七らの活躍で善戦し、その間に救援に駆けつけた細川藤孝らによって、三好の軍勢は再び京を追い払われたとのことだ。
初日の襲撃で、将軍側に二十人余りの死者が出たとの話だが、その中に十兵衛の名があるかは定かではないらしい。
その報せを聞いた信長は、六日には出立し、通常京まで三日かかるところを二日で駆けつけ、公方を喜ばせたとか。
ただ、急な出陣と大雪の中の強行軍で、信長配下の馬借たちに相当数凍死者が出たそうだ。
信長は、また三好勢が攻めてきてはと、そのまま京に残り、将軍家のために堅牢な御所を造ろうと、二条あたりに普請をしようとしているらしい。
城を造るなら、木材から石材、金物などなど必要で、またそれを造る職人も呼ばねばならず、人が集まれば欠かせぬのが飯で、食料や生活用品などの細々した物から、傍や男の欲望を満たす女たちも集まってきて、そうなると商人の出番で、八郎は商いのために京へあがるつもりだったようだ。
そのついでに、十兵衛の安否を確認しようと思ったらしい。
「あいつは、ついでだ。正直、あいつが死のうが、俺には関係ないし、俺が死んでも、あいつは気にも留めんだろう。あいつと俺は、そういう間柄だ」
話し終えた頃には日も傾き、道から外れた場所で火を焚き、野宿になった。
「貧乏公方は無事だったが、奉公衆の何人かが討ち死にしたらしい。その中に十兵衛の名があるとか、ないとか」
真偽が不明なので、確かめに行く途中だったらしい ―― 正確には、商いに行くついでに確かめる、といった具合だ。
歩きながら、八郎は事の顛末を詳しく話してくれた。
昨年の雷無月(十月)に、義昭が織田信長の力を借りて上京、畿内周辺を抑えていた三好勢を一掃して入京し、帝から将軍の宣下を受け、十五代将軍となった。
これは十兵衛に聞いた。
その後、信長は早々に美濃に引き揚げたのだが、これを好機と見たのが、三好長逸、三好宋渭、岩成友通の三好三人衆で、信長に美濃をとられた斎藤龍興とともに、年の終わりごろから将軍方の武将が守る堺の城を攻め落とし、京へと攻め寄せたらしい。
一方の十五代義昭は、六条の本国寺(江戸時代に本圀寺に改称)に立てこもり、三好勢一万余りを迎え撃つこととなる。
―― 味方は二千
敵は一万
この合戦、三好勢が有利!
………………と思われたが、若狭衆山県盛信、宇野弥七らの活躍で善戦し、その間に救援に駆けつけた細川藤孝らによって、三好の軍勢は再び京を追い払われたとのことだ。
初日の襲撃で、将軍側に二十人余りの死者が出たとの話だが、その中に十兵衛の名があるかは定かではないらしい。
その報せを聞いた信長は、六日には出立し、通常京まで三日かかるところを二日で駆けつけ、公方を喜ばせたとか。
ただ、急な出陣と大雪の中の強行軍で、信長配下の馬借たちに相当数凍死者が出たそうだ。
信長は、また三好勢が攻めてきてはと、そのまま京に残り、将軍家のために堅牢な御所を造ろうと、二条あたりに普請をしようとしているらしい。
城を造るなら、木材から石材、金物などなど必要で、またそれを造る職人も呼ばねばならず、人が集まれば欠かせぬのが飯で、食料や生活用品などの細々した物から、傍や男の欲望を満たす女たちも集まってきて、そうなると商人の出番で、八郎は商いのために京へあがるつもりだったようだ。
そのついでに、十兵衛の安否を確認しようと思ったらしい。
「あいつは、ついでだ。正直、あいつが死のうが、俺には関係ないし、俺が死んでも、あいつは気にも留めんだろう。あいつと俺は、そういう間柄だ」
話し終えた頃には日も傾き、道から外れた場所で火を焚き、野宿になった。
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