本能寺燃ゆ

hiro75

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第二章「性愛の山」

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「これが売り物か?」

「ああ、上物だろう?」

 頭はにやりと笑うが、八郎はにこりともしなかった。

「どうだ、これぐらいで」

 頭の方は指を何本かあげたが、八郎はそれを見ずに、権太たちに近づいた。

「こいつら、どうした?」

「夜に峠を上がってきやがった、馬鹿な奴らだ」

「ああ、本当に馬鹿だな」

 八郎は、姉と権太の顔を見ていった。

「お前ら、この女に手を出したろう?」

 八郎が振り返ると、頭を含めた男たちが相当慌てていた。

「いや、そんな……、俺たちゃ、そんなことはしないよ、商いもんに手を出すなんて。なあ、兄弟」

「そ、そうだぜぇ、兄弟」

「そうだ、そうだ」

 と、男たちは騒ぐが、その声は幾分震えていた。

「嘘つけ、分かるんだよ、そういうことは。これだけだ!」

 そう言うと八郎は、男たちに袋を投げて寄越した。

 ざっと音がしたので、銭が入っているのだろう。

 頭は袋を開けて、えっと声をあげ、「こいつは少なすぎる、これはひとりでも半値だ」

「やかましい! 傷ついた商いもんを誰が買うっていうんだ! 半値でも出してもらえるだけ有難いと思え!」

 八郎が怒鳴りつける。

 男たちの大きな体がびくつき、顔が引きつる。

 どちらが山賊か分からない。

 八郎は、ぎっと睨みを利かせ、「行くぞ」と、姉と権太を促し歩き出した。

「待て! この取引はなしだ! そいつらを返せ!」

 山賊の頭が叫んだ。

 八郎は振り返り、静かに答える。

「銭なら払ったぞ!」

「いや、あんたとの取引はなしだ。そいつらは、別の奴に売る」

「誰に売るんだ? 他の商人あきんどか? 言っとくが、他の奴らは俺よりももっと目利きで、鼻が利くぞ、それでおまんま食ってんだからな。それに商人は、侍以上に横のつながりが強い、変な噂はすぐに耳に入って、こいつら売れんぞ。それなら、まだ俺に売った方がましだぞ」

 八郎の言うことのほうが利に適っているのか、山賊の頭はぐっと奥歯を食いしばって黙りこくってしまった。

 八郎は、顎で行くぞと促し、再び歩き出した。

 姉と権太もそれに続く。

 と、突如後ろから奇声があがった。

「待ちやがれ! このくそ野郎!」

 はっと振り返ると、目の前にぎらぎらと光るものが飛び込んできた。

 ―― やられる!

 そう思った瞬間、権太の身体がふわりと浮かんで、後ろに投げ出された。

 代わりに、八郎が前に進み出て、刀を抜いていた。

「ぎゃっ!」

 絶叫が響き渡る ―― 頭の右腕の肘から先がなくなり、血がほとばしる。

 なくなった右腕は、刀の柄を握ったまま、大地に突き刺さっていた。

 山賊たちが、腕を抑えて転びまわる頭に駆け寄る。

「行くぞ!」

 八郎は、刀を納めて背中を向けた。

 姉もついていく。

 権太も慌てて追った、ときより追いかけてこないかと後ろを振り返り、振り返りしていたが、

「待て! このくそ野郎!」

 と、男たちは叫ぶだけで、追いかけては来なかった。
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