本能寺燃ゆ

hiro75

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第二章「性愛の山」

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 しばらくして寝てしまったようだ。

 こちらに話しかける男の声や、茂みの奥からの唸り声もだんだん遠のき、はたと目を開けると、すでに夜が明け、頭の上で日が照り付けていた。

 焚き火は、まだ燃えている。

「起きたか、ぼう?」

 声に顔をあげると、傍らにはまだ男がいた。

 昨日のことは夢ではなかった。

 現実なのだ。

 いや、まだ夢の続きを見ているのだろうか?

 姉は………………?

 茂みの奥からは、まだ声が聞こえている。

「あのうつけども、夜通しやりよって。女に生気を吸い取られるぞ」

 男は、呆れたようにため息を吐いた。

 男たちが茂みから出てきたのは、日が沈みかけ、空は真っ赤に燃え、辺りに帳が落ち始めたころだ。

 男たちは酷く疲れた様子で、目を瞬かせ、焚き火の前にどかりと寝転がったかと思うと、すぐさまぐうぐうと鼾を掻きはじめた。

 遅れて、姉が出てきた。

 着物の襟元を直し、乱れた後れ毛を撫でつけながら出てきて、権太と目が合うと、ぷいと顔を背け、男たちの傍らに横になった。

「おい、飯はいいのか?」

 頭が訊くが、姉はそのまま寝入ってしまった。

「しょうがねぇな」

 男は、権太に黒茶色い木の皮のようなものを投げて寄越した。

 いや、本当に木の皮だ。

 これを食べろというのか?

 戸惑っていると、

「猪の干肉だ、食ってみろ」

 恐る恐る口に入れたが、本当に木の皮を食べているようだ。

 かき餅よりも硬くて、噛み切れない。

 だが、塩気があって、美味しい。

 仕方なくしゃぶり続け、しばらくすると唾液で柔らくなって、噛み千切り嚥下した。

 意外にイケた。

 夜も更けると、男たちがむくりと起き上がった。

 そして、寝ぼけ眼の姉を抱きかかえると、再び茂みに入って行った。

 しばらくすると、また始まった。

「よく飽きもせず」

 と、頭は大あくびをして寝てしまった。

 権太も、昨夜よりも気にならずに寝た。

 それを数日繰り返した。

 男たちは、寝ているとき以外はずっと姉を犯し、姉も、殆ど食べることも飲むこともせずに相手をしていた。

 そのせいか、男たちは見る見るうちに生気がなくなり、頬もげっそりとして、どこか具合が悪そうだった。

 その癖、姉のことを餓えた狼のように追い回していた。

 一方、姉はいたって元気で、事が終わったあとは死んだように眠りこむのだが、顔は艶やかで、妙に色気が出てきた。

 一度、頭にも迫ったことがあった。

 男たちが死んだように眠りについたあとで、姉は頭の男に身体を寄せ、上目づかいに見つめた ―― 嫌らしいと思った。

 男はびくりと体を震わせ、しなだれかかる女をしばらく見ていたが、

「いけねぇ、いけねぇ、悪いが俺は売り物に手を出すつもりはねぇんだ」

 と、拒んでいた。

 姉は、ふんと鼻で笑い、男たちに交って横になった。

 姉が寝た後で、頭は呟いた。

「ありゃ、いけねぇ!」

 何がいけないのか、権太には分からなかった。
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