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第二章「性愛の山」
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すると、いままで恐怖で震えていた姉が口を開いた。
相手ならいくらでもする、その代り願いを聞いてほしい、と。
唐突な姉の言葉に、腕組み男は面喰いながらも訊いた。
「願いとは? 命乞いか? それとも、ぼうは助けてほしいか?」
姉は首を振り、連れて行ってほしいところがあると答える。
「連れていて欲しいところ? どこだ?」
京だ、と。
「京? 何をしに行く」
それは答えられない、だが、京に連れて行ってくれるのなら、自分をどうにでもしていいし、弟を売りとばしてもいいと姉は答えた。
男たちは笑い出した。
ゲタゲタ、ゲラゲラと、山中に響き渡る。
「そうか、京に行きたいか、女。いいだろう、京に連れて行ってやる。だがその前に、俺たちが、京よりも、もっといいところに連れて行ってやろう。たっぷりと可愛がってやるぞ。いいだろう、兄弟、女が望んだことだ」
そう言うと男たちは、姉をその場に押し倒し、いまにも着物を剥ぎ取ろうとした。
「おい、止せ」と、頭が言った、「餓鬼が見てるだろう! やるなら奥でやれ! それと売り物だ、あまり傷つけるなよ」
男たちは、「分かった、分かった」と、姉の手を引き、茂みの奥へと分け入った。
しばらくして、男たちの獣のような呻き声と、姉のあの声がしてきた。
「全く、しょうもない奴らだ」
頭は、茂みの奥を呆れるように見て、焚き火の前にどかりと座った。
茂みの奥からは、「ええ具合や……、ああ、気持えぇ! こんなにええのは初めてや」「おい、早うせ! 早うイケや!」「ああ、もう辛抱できん、おら、咥えろ!」と、男たちの汚らしい笑い声とともに、姉のくぐもった声も聞こえてきた。
何をしているのか、権太にも分かった。
十兵衛としていたことを、男たちとしているのだ。
姉は、京に行くために、男たちに身体を売ったのだ。
それは裏切りだと、権太は思った。
十兵衛に会いに行くために、十兵衛以外の男に身体を許す………………裏切り行為そのものでしかないと、権太は、姉を汚らしいと思った。
権太は、姉と男たちがいる茂みを、ぎっと睨みつけた。
「ぼう、こっちへ来て、火にあたれ」
頭は、そんな権太を心配したのか、優しい口調で言った。
男の傍に腰を下ろした。
温かい。
それまで寒さとひもじさと、そして男たちへの恐怖で震えていたが、焚き火で徐々に体も温もり、山賊に捕えられたというのに、逆にほっとした。
そっと男を見ると、彼は難しそうな顔をしていた。
権太の視線に気が付き、慌てて目を逸らして枝木をくべる。
「二、三回やれば飽きる、その間の辛抱だ」
ぱちんと火が爆ぜた。
「ぼうの姉は強いな。侍でも、ワシらに取り囲まれると泣きながら命乞いをするものなのに、逆にワシらに京に連れていけと言ってこようとはな」
男は、権太には顔を向けず、ただ燃え盛る火を見つめながら言った。
「女房にするんなら、あんな女がええぞ、ぼう」
そうだろうか?
十兵衛以外の男に身体を許す女の、どこが良いというのか?
「ぼうも、もう少し大人になって、女房をとるぐらいになったら分かる」
分かりたくないと思った。
うらは、十兵衛と一緒になるのだから、女房はいらぬと………………
相手ならいくらでもする、その代り願いを聞いてほしい、と。
唐突な姉の言葉に、腕組み男は面喰いながらも訊いた。
「願いとは? 命乞いか? それとも、ぼうは助けてほしいか?」
姉は首を振り、連れて行ってほしいところがあると答える。
「連れていて欲しいところ? どこだ?」
京だ、と。
「京? 何をしに行く」
それは答えられない、だが、京に連れて行ってくれるのなら、自分をどうにでもしていいし、弟を売りとばしてもいいと姉は答えた。
男たちは笑い出した。
ゲタゲタ、ゲラゲラと、山中に響き渡る。
「そうか、京に行きたいか、女。いいだろう、京に連れて行ってやる。だがその前に、俺たちが、京よりも、もっといいところに連れて行ってやろう。たっぷりと可愛がってやるぞ。いいだろう、兄弟、女が望んだことだ」
そう言うと男たちは、姉をその場に押し倒し、いまにも着物を剥ぎ取ろうとした。
「おい、止せ」と、頭が言った、「餓鬼が見てるだろう! やるなら奥でやれ! それと売り物だ、あまり傷つけるなよ」
男たちは、「分かった、分かった」と、姉の手を引き、茂みの奥へと分け入った。
しばらくして、男たちの獣のような呻き声と、姉のあの声がしてきた。
「全く、しょうもない奴らだ」
頭は、茂みの奥を呆れるように見て、焚き火の前にどかりと座った。
茂みの奥からは、「ええ具合や……、ああ、気持えぇ! こんなにええのは初めてや」「おい、早うせ! 早うイケや!」「ああ、もう辛抱できん、おら、咥えろ!」と、男たちの汚らしい笑い声とともに、姉のくぐもった声も聞こえてきた。
何をしているのか、権太にも分かった。
十兵衛としていたことを、男たちとしているのだ。
姉は、京に行くために、男たちに身体を売ったのだ。
それは裏切りだと、権太は思った。
十兵衛に会いに行くために、十兵衛以外の男に身体を許す………………裏切り行為そのものでしかないと、権太は、姉を汚らしいと思った。
権太は、姉と男たちがいる茂みを、ぎっと睨みつけた。
「ぼう、こっちへ来て、火にあたれ」
頭は、そんな権太を心配したのか、優しい口調で言った。
男の傍に腰を下ろした。
温かい。
それまで寒さとひもじさと、そして男たちへの恐怖で震えていたが、焚き火で徐々に体も温もり、山賊に捕えられたというのに、逆にほっとした。
そっと男を見ると、彼は難しそうな顔をしていた。
権太の視線に気が付き、慌てて目を逸らして枝木をくべる。
「二、三回やれば飽きる、その間の辛抱だ」
ぱちんと火が爆ぜた。
「ぼうの姉は強いな。侍でも、ワシらに取り囲まれると泣きながら命乞いをするものなのに、逆にワシらに京に連れていけと言ってこようとはな」
男は、権太には顔を向けず、ただ燃え盛る火を見つめながら言った。
「女房にするんなら、あんな女がええぞ、ぼう」
そうだろうか?
十兵衛以外の男に身体を許す女の、どこが良いというのか?
「ぼうも、もう少し大人になって、女房をとるぐらいになったら分かる」
分かりたくないと思った。
うらは、十兵衛と一緒になるのだから、女房はいらぬと………………
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