本能寺燃ゆ

hiro75

文字の大きさ
上 下
88 / 498
第二章「性愛の山」

11

しおりを挟む
 すると、いままで恐怖で震えていた姉が口を開いた。

 相手ならいくらでもする、その代り願いを聞いてほしい、と。

 唐突な姉の言葉に、腕組み男は面喰いながらも訊いた。

「願いとは? 命乞いか? それとも、ぼうは助けてほしいか?」

 姉は首を振り、連れて行ってほしいところがあると答える。

「連れていて欲しいところ? どこだ?」

 みやこだ、と。

「京? 何をしに行く」

 それは答えられない、だが、京に連れて行ってくれるのなら、自分をどうにでもしていいし、弟を売りとばしてもいいと姉は答えた。

 男たちは笑い出した。

 ゲタゲタ、ゲラゲラと、山中に響き渡る。

「そうか、京に行きたいか、女。いいだろう、京に連れて行ってやる。だがその前に、俺たちが、京よりも、もっといいところに連れて行ってやろう。たっぷりと可愛がってやるぞ。いいだろう、兄弟、女が望んだことだ」

 そう言うと男たちは、姉をその場に押し倒し、いまにも着物を剥ぎ取ろうとした。

「おい、止せ」と、頭が言った、「餓鬼が見てるだろう! やるなら奥でやれ! それと売り物だ、あまり傷つけるなよ」

 男たちは、「分かった、分かった」と、姉の手を引き、茂みの奥へと分け入った。

 しばらくして、男たちの獣のような呻き声と、姉のあの声がしてきた。

「全く、しょうもない奴らだ」

 頭は、茂みの奥を呆れるように見て、焚き火の前にどかりと座った。

 茂みの奥からは、「ええ具合や……、ああ、気持えぇ! こんなにええのは初めてや」「おい、早うせ! 早うイケや!」「ああ、もう辛抱できん、おら、咥えろ!」と、男たちの汚らしい笑い声とともに、姉のくぐもった声も聞こえてきた。

 何をしているのか、権太にも分かった。

 十兵衛としていたことを、男たちとしているのだ。

 姉は、京に行くために、男たちに身体を売ったのだ。

 それは裏切りだと、権太は思った。

 十兵衛に会いに行くために、十兵衛以外の男に身体を許す………………裏切り行為そのものでしかないと、権太は、姉を汚らしいと思った。

 権太は、姉と男たちがいる茂みを、ぎっと睨みつけた。

「ぼう、こっちへ来て、火にあたれ」

 頭は、そんな権太を心配したのか、優しい口調で言った。

 男の傍に腰を下ろした。

 温かい。

 それまで寒さとひもじさと、そして男たちへの恐怖で震えていたが、焚き火で徐々に体も温もり、山賊に捕えられたというのに、逆にほっとした。

 そっと男を見ると、彼は難しそうな顔をしていた。

 権太の視線に気が付き、慌てて目を逸らして枝木をくべる。

「二、三回やれば飽きる、その間の辛抱だ」

 ぱちんと火が爆ぜた。

「ぼうの姉は強いな。侍でも、ワシらに取り囲まれると泣きながら命乞いをするものなのに、逆にワシらに京に連れていけと言ってこようとはな」

 男は、権太には顔を向けず、ただ燃え盛る火を見つめながら言った。

「女房にするんなら、あんな女がええぞ、ぼう」

 そうだろうか?

 十兵衛以外の男に身体を許す女の、どこが良いというのか?

「ぼうも、もう少し大人になって、女房をとるぐらいになったら分かる」

 分かりたくないと思った。

 うらは、十兵衛と一緒になるのだから、女房はいらぬと………………
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

1333

干支ピリカ
歴史・時代
 鎌倉幕府末期のエンターテイメントです。 (現在の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』から、100年ちょい後の話です)  鎌倉や京都が舞台となります。心躍る激しい合戦や、ぞくぞくするようなオドロオドロしい話を目指そうと思いましたが、結局政治や謀略の話が多くなりました。  主役は足利尊氏の弟、直義です。エキセントリックな兄と、サイケデリックな執事に振り回される、苦労性のイケメンです。  ご興味を持たれた方は是非どうぞ!

大航海時代 日本語版

藤瀬 慶久
歴史・時代
日本にも大航海時代があった――― 関ケ原合戦に勝利した徳川家康は、香木『伽羅』を求めて朱印船と呼ばれる交易船を東南アジア各地に派遣した それはあたかも、香辛料を求めてアジア航路を開拓したヨーロッパ諸国の後を追うが如くであった ―――鎖国前夜の1631年 坂本龍馬に先駆けること200年以上前 東の果てから世界の海へと漕ぎ出した、角屋七郎兵衛栄吉の人生を描く海洋冒険ロマン 『小説家になろう』で掲載中の拙稿「近江の轍」のサイドストーリーシリーズです ※この小説は『小説家になろう』『カクヨム』『アルファポリス』で掲載します

【完結】電を逐う如し(いなづまをおうごとし)――磯野丹波守員昌伝

糸冬
歴史・時代
浅井賢政(のちの長政)の初陣となった野良田の合戦で先陣をつとめた磯野員昌。 その後の働きで浅井家きっての猛将としての地位を確固としていく員昌であるが、浅井家が一度は手を携えた織田信長と手切れとなり、前途には様々な困難が立ちはだかることとなる……。 姉川の合戦において、織田軍十三段構えの陣のうち実に十一段までを突破する「十一段崩し」で勇名を馳せた武将の一代記。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した 若き日の滝川一益と滝川義太夫、 尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として 天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。

永き夜の遠の睡りの皆目醒め

七瀬京
歴史・時代
近藤勇の『首』が消えた……。 新撰組の局長として名を馳せた近藤勇は板橋で罪人として処刑されてから、その首を晒された。 しかし、その首が、ある日忽然と消えたのだった……。 近藤の『首』を巡り、過去と栄光と男たちの愛憎が交錯する。 首はどこにあるのか。 そして激動の時代、男たちはどこへ向かうのか……。 ※男性同士の恋愛表現がありますので苦手な方はご注意下さい

本能のままに

揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください! ※更新は不定期になると思います。

処理中です...