本能寺燃ゆ

hiro75

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第二章「性愛の山」

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 そのまま朝まで続くのかと思われた。

 が、不意に、「そろそろお暇するか」と、ひとりの言葉でお開きになった。

「あまり居座って、折角の親子水入らずを邪魔してはな」

 と、年寄り連中は、それぞれの家に戻っていった。

 三人になると、妙に静かになった。

 昔から三人だった ―― 母は、権太を産んですぐに亡くなった。

 三人暮らしは慣れている。

 特に寂しいとも感じたことはない。

 が、今夜は異様に寂しかった。

 源太郎は、ほぼ酔いつぶれていた。

 囲炉裏端に座ってうつらうつらとして、ときおり囲炉裏の中に落ちそうになるので、姉が床に就くようにと促した。

 父は、素直に横になった。

 しばらくは、おえいの小さい頃のことを独り言にように話していたが、そのうち大きな鼾を掻きはじめた。

 権太も横になった。

 しばらく片づけをする姉の後ろ姿を眺めていたが ―― もう何度も見てきた光景だが、瞼も重くなり、いつの間にか眠ってしまった。

 はっと目を覚ました時には、囲炉裏の火も小さくなっていた。

 どのぐらい寝たのだろうか?

 父の鼾は、まだ聞こえてくる。

 まだ朝ではないようだ。

 姉の後ろ姿が見えるということは、それほど経っていないのだろうと思い、再び目を閉じた。

 そして夢なのか、考え事なのか分からないことが頭を巡っているとき、ふと、あることに気が付き、目を開けた。

 姉の姿がなかった。

 寝たのか?

 横を見るが、いない。

 普段は、父、姉、権太の順に横になっているのだが、父と権太の間に女はいなかった。

 小用だろうか?

 それとも、やはり十兵衛恋しさに、客間で寝ているのか?

 耳を澄ますが、あの声は聞こえてこない。

 起き上がり、そっと客間を覗いても、誰もいない。

 権太は、もしやと思い、入り口を見た。

 僅かだが、扉が開き、冷たい風が入ってきている。

 建付けの悪い引き戸ではあるが、しかりと閉めたはず。

 ―― なぜ?

    もしや?

    いや、やはり………………

 思い当る節があった。

 先ほど姉の後ろ姿をみたとき、違和感があった ―― 背中に何かを背負っていたような気がする。

 あれは、もしかすると………………

 権太は、慌てて飛び出した。
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