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第二章「性愛の山」
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そのまま朝まで続くのかと思われた。
が、不意に、「そろそろお暇するか」と、ひとりの言葉でお開きになった。
「あまり居座って、折角の親子水入らずを邪魔してはな」
と、年寄り連中は、それぞれの家に戻っていった。
三人になると、妙に静かになった。
昔から三人だった ―― 母は、権太を産んですぐに亡くなった。
三人暮らしは慣れている。
特に寂しいとも感じたことはない。
が、今夜は異様に寂しかった。
源太郎は、ほぼ酔いつぶれていた。
囲炉裏端に座ってうつらうつらとして、ときおり囲炉裏の中に落ちそうになるので、姉が床に就くようにと促した。
父は、素直に横になった。
しばらくは、おえいの小さい頃のことを独り言にように話していたが、そのうち大きな鼾を掻きはじめた。
権太も横になった。
しばらく片づけをする姉の後ろ姿を眺めていたが ―― もう何度も見てきた光景だが、瞼も重くなり、いつの間にか眠ってしまった。
はっと目を覚ました時には、囲炉裏の火も小さくなっていた。
どのぐらい寝たのだろうか?
父の鼾は、まだ聞こえてくる。
まだ朝ではないようだ。
姉の後ろ姿が見えるということは、それほど経っていないのだろうと思い、再び目を閉じた。
そして夢なのか、考え事なのか分からないことが頭を巡っているとき、ふと、あることに気が付き、目を開けた。
姉の姿がなかった。
寝たのか?
横を見るが、いない。
普段は、父、姉、権太の順に横になっているのだが、父と権太の間に女はいなかった。
小用だろうか?
それとも、やはり十兵衛恋しさに、客間で寝ているのか?
耳を澄ますが、あの声は聞こえてこない。
起き上がり、そっと客間を覗いても、誰もいない。
権太は、もしやと思い、入り口を見た。
僅かだが、扉が開き、冷たい風が入ってきている。
建付けの悪い引き戸ではあるが、しかりと閉めたはず。
―― なぜ?
もしや?
いや、やはり………………
思い当る節があった。
先ほど姉の後ろ姿をみたとき、違和感があった ―― 背中に何かを背負っていたような気がする。
あれは、もしかすると………………
権太は、慌てて飛び出した。
が、不意に、「そろそろお暇するか」と、ひとりの言葉でお開きになった。
「あまり居座って、折角の親子水入らずを邪魔してはな」
と、年寄り連中は、それぞれの家に戻っていった。
三人になると、妙に静かになった。
昔から三人だった ―― 母は、権太を産んですぐに亡くなった。
三人暮らしは慣れている。
特に寂しいとも感じたことはない。
が、今夜は異様に寂しかった。
源太郎は、ほぼ酔いつぶれていた。
囲炉裏端に座ってうつらうつらとして、ときおり囲炉裏の中に落ちそうになるので、姉が床に就くようにと促した。
父は、素直に横になった。
しばらくは、おえいの小さい頃のことを独り言にように話していたが、そのうち大きな鼾を掻きはじめた。
権太も横になった。
しばらく片づけをする姉の後ろ姿を眺めていたが ―― もう何度も見てきた光景だが、瞼も重くなり、いつの間にか眠ってしまった。
はっと目を覚ました時には、囲炉裏の火も小さくなっていた。
どのぐらい寝たのだろうか?
父の鼾は、まだ聞こえてくる。
まだ朝ではないようだ。
姉の後ろ姿が見えるということは、それほど経っていないのだろうと思い、再び目を閉じた。
そして夢なのか、考え事なのか分からないことが頭を巡っているとき、ふと、あることに気が付き、目を開けた。
姉の姿がなかった。
寝たのか?
横を見るが、いない。
普段は、父、姉、権太の順に横になっているのだが、父と権太の間に女はいなかった。
小用だろうか?
それとも、やはり十兵衛恋しさに、客間で寝ているのか?
耳を澄ますが、あの声は聞こえてこない。
起き上がり、そっと客間を覗いても、誰もいない。
権太は、もしやと思い、入り口を見た。
僅かだが、扉が開き、冷たい風が入ってきている。
建付けの悪い引き戸ではあるが、しかりと閉めたはず。
―― なぜ?
もしや?
いや、やはり………………
思い当る節があった。
先ほど姉の後ろ姿をみたとき、違和感があった ―― 背中に何かを背負っていたような気がする。
あれは、もしかすると………………
権太は、慌てて飛び出した。
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