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第一章「純愛の村」
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そうするうちに、八郎から遣いがきた。
文月に入って、源太郎を頭に若衆数名で、領主の屋敷に届ける竹をとりに山に入った日、八郎の遣いという男がやってきて、書状だけ置いていった。
その数日後に、十兵衛がひょっこり帰ってきた。
弥平次も連れている。
「山崎様から、竹を貰ってきてくれと言われたので。あと、できれば足利様のところにも欲しくて」
と、荷役として弥平次を連れて来たようだ。
竹は、七夕や盆の行事に必要だった。
「竹でしたら、こちらからお運びするつもりでしたのに」
「いや、ついでですし」
「ああ、そうそう」、二人が囲炉裏端に腰を下ろすと、源太郎が思い出したように書状を出した、「真田様からお遣いがございまして、こちらを」
「おっ、待ってました!」
十兵衛は急いで書面を開き、読みだす。
弥平次も、覗き込んでいる。
「うむ、良き返事です」
八郎の話では、織田の侍大将となっていた藤吉郎という男と話ができたらしい。
藤吉郎もこの話に興味を持ち、『ならば殿に話してみよう』となったようだ。
すると、
「織田も話に食いついてきたらしい」
但し………………、条件が付いていた。
「その条件とは?」
弥平次が訊いた。
「足利様から一筆欲しいとのこと」
信長としては、以前の約束を反故にしたのは義昭である、ならば義昭から再度依頼のための書状を出すべきだ ―― 要は、力添えのために頭を下げろ、それを書面に残しておけということらしい。
「信長という男、意外に用心深いとうか、細かいというか、いや、面白い」
「面白いものか、そういうところが、拙者はいけ好かん。だいたい、あの決まり事を破ったのは、織田ではないか」
それは弥平次というよりも、義昭以下幕臣の意見であろう。
折角斎藤氏との間を取り持ち、いつでも上京できる環境を整えてやったのに、それを破って斎藤氏を攻めたのだから、義昭側の意見も当然だ。
頭を下げるなど、言語道断 ―― 本来なら、そっちが頭を下げ、詫びを入れ、有無を言わずに力を貸すべきだ。
「三淵殿や和田殿なら、きっとそう言って、織田など頼らんとなるぞ。拙者でもそう言う」
「まあ、その気持ち分からんでもないが、現状を考えてみろ。いま織田以外に、どこが頼りになる? 朝倉様は動かぬ。なら六角か? それとも越後の上杉か? 甲斐の武田? 今川? はたまた毛利か? 正直なところ、織田ほど勢いも、財力もあるまい。ならば、ここは、一筆書いてやればいいのではないか? 別に、実際に頭を下げるわけではあるまいし」
「侍としての心意気の話でござる」
「確かに、決まり事を守らんでは話にならんが、それも世の常だ。それに、いま大事なのは侍の心意気ではない、足利様が将軍になるために如何にすべきか、如何に考えるべきかであろう? 使える駒があるなら、それが最善で、最強な駒なら、使う方が良い。足利様が将軍になれば、拙者らの生活もいまよりも楽なる。飯も食い放題だぞ」
「拙者は、それほど安楽な身を望んではおらん」
「俺は、望んでいるよ」と、十兵衛は笑った、「それにだ、足利様と織田が結べば、足利様の烏帽子親である朝倉様には手が出せなくなる。となると、この越前は安泰だ」
それを聞いて、源太郎が口を挟んだ。
「そうでございますよ、三宅様。是非、足利様に一筆書いてもらうべきです」
「う、うむ……」
弥平次は、源太郎があまりの勢いで頼んでくるので、聊か戸惑っていた。
文月に入って、源太郎を頭に若衆数名で、領主の屋敷に届ける竹をとりに山に入った日、八郎の遣いという男がやってきて、書状だけ置いていった。
その数日後に、十兵衛がひょっこり帰ってきた。
弥平次も連れている。
「山崎様から、竹を貰ってきてくれと言われたので。あと、できれば足利様のところにも欲しくて」
と、荷役として弥平次を連れて来たようだ。
竹は、七夕や盆の行事に必要だった。
「竹でしたら、こちらからお運びするつもりでしたのに」
「いや、ついでですし」
「ああ、そうそう」、二人が囲炉裏端に腰を下ろすと、源太郎が思い出したように書状を出した、「真田様からお遣いがございまして、こちらを」
「おっ、待ってました!」
十兵衛は急いで書面を開き、読みだす。
弥平次も、覗き込んでいる。
「うむ、良き返事です」
八郎の話では、織田の侍大将となっていた藤吉郎という男と話ができたらしい。
藤吉郎もこの話に興味を持ち、『ならば殿に話してみよう』となったようだ。
すると、
「織田も話に食いついてきたらしい」
但し………………、条件が付いていた。
「その条件とは?」
弥平次が訊いた。
「足利様から一筆欲しいとのこと」
信長としては、以前の約束を反故にしたのは義昭である、ならば義昭から再度依頼のための書状を出すべきだ ―― 要は、力添えのために頭を下げろ、それを書面に残しておけということらしい。
「信長という男、意外に用心深いとうか、細かいというか、いや、面白い」
「面白いものか、そういうところが、拙者はいけ好かん。だいたい、あの決まり事を破ったのは、織田ではないか」
それは弥平次というよりも、義昭以下幕臣の意見であろう。
折角斎藤氏との間を取り持ち、いつでも上京できる環境を整えてやったのに、それを破って斎藤氏を攻めたのだから、義昭側の意見も当然だ。
頭を下げるなど、言語道断 ―― 本来なら、そっちが頭を下げ、詫びを入れ、有無を言わずに力を貸すべきだ。
「三淵殿や和田殿なら、きっとそう言って、織田など頼らんとなるぞ。拙者でもそう言う」
「まあ、その気持ち分からんでもないが、現状を考えてみろ。いま織田以外に、どこが頼りになる? 朝倉様は動かぬ。なら六角か? それとも越後の上杉か? 甲斐の武田? 今川? はたまた毛利か? 正直なところ、織田ほど勢いも、財力もあるまい。ならば、ここは、一筆書いてやればいいのではないか? 別に、実際に頭を下げるわけではあるまいし」
「侍としての心意気の話でござる」
「確かに、決まり事を守らんでは話にならんが、それも世の常だ。それに、いま大事なのは侍の心意気ではない、足利様が将軍になるために如何にすべきか、如何に考えるべきかであろう? 使える駒があるなら、それが最善で、最強な駒なら、使う方が良い。足利様が将軍になれば、拙者らの生活もいまよりも楽なる。飯も食い放題だぞ」
「拙者は、それほど安楽な身を望んではおらん」
「俺は、望んでいるよ」と、十兵衛は笑った、「それにだ、足利様と織田が結べば、足利様の烏帽子親である朝倉様には手が出せなくなる。となると、この越前は安泰だ」
それを聞いて、源太郎が口を挟んだ。
「そうでございますよ、三宅様。是非、足利様に一筆書いてもらうべきです」
「う、うむ……」
弥平次は、源太郎があまりの勢いで頼んでくるので、聊か戸惑っていた。
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