本能寺燃ゆ

第一章「純愛の村」

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　だがこの高国も、澄元の息子である晴元はるもとに追いやられることになる。

　己こそが細川宗家を継ぐもの、父の仇と、阿波で蜂起の機会を狙っていた晴元は、これも澄元の重臣で、高国によって父三好之長みよしゆきながを殺された元長もとながと手を組み、海峡を渡って堺に上陸、そのとき十一代義澄の遺児を奉じて高国と対峙することとなった。

　この遺児こそが、義維である。

　義維は、阿波国守護細川之持ほそかわゆきもちの庇護を受けていたのだが、十代将軍義稙よしたねの養子にもなっている。

　この義稙という将軍、かなりの曲者で、今日の将軍家の混乱は、彼が引き起こしたといっても過言ではない。

　九代将軍義煕よしひろ（義尚よしひさ）には男児がいなかったので、十代将軍として、足利義視よしみ（八代将軍義政よしまさの弟）の子であった義材よしきが就くことになる。

　この将軍、別名を『流れ公方』と称される。

　修験道に没頭していたという変り者の管領細川政元と対立し、捕えられて京の竜安寺に幽閉さるるも、夜陰に紛れて脱走し、以後再起をかけて方々を流れていくことになる　――　故に『流れ公方』である。

　ちなみに義材は、朝倉家九代当主貞景を頼ったこともあり、義秋が十一代目義景を頼って下向したのも、これに習ったのかもしれない。

　義材は、その後義尹よしただと名を改め、彼とともに政元に追い落とされた畠山尚順はたけやまひさのぶに呼応し、蜂起する。

　一方、政元に擁立されたのが足利義高よしたかで、後に名を改め、十一代義澄となる。

　義尹は、京まであと一歩というところまで迫ったが、結局破れて西国の大内氏まで落ちることになる。

　だがこの人、相当諦めが悪いのか、細川家の内紛に便乗して、大内義興おおうちよしおきとともに立ち上がる。

　すでに高国によって、澄元、そして澄元に同調していた十一代義澄が京から落とされ、代わりに義尹が入って、征夷大将軍へと返り咲くのである。

　のちに改名する義稙その人である。

　ちなみに、武家の征夷大将軍である鎌倉、室町、そして江戸の中で、復職したのはこの義稙だけである。

　将軍職に復帰した義稙であったが、やはり放浪の星のもとに生まれたせいか、しばらくすると高国と仲たがいし、またまた京を脱け出し、淡路へと逃げ、最期は阿波へとたどり着き、そこで生涯を終える。

　だが、最期の最期まで復活を企んでいたようで、自分が亡き後はこやつが………………と、阿波いた義維を養子にしたようだ（義稙には、跡を継げる実子がいなかった）。

　困ったのは高国で、実権は管領たる自分が取り仕切っても、権威の象徴たる将軍がいなくては、管領そのものの地位に意味がなく、自分の存在が危ぶまれる。

　十兵衛が言うように、将軍など飾りで、実際誰でもいいのだと。

　仕方なく、十一代義澄の次男であった義晴を将軍に据える。

　一方、父澄元の仇討と立ち上がった細川晴元と三好元長が、義澄の長男義維を奉じ、激突することになる。

　最終的に高国が自刃し、晴元が管領職を得るが、今度は晴元と元長が仲違いし、結局元長を追いやることになる。

　この混乱より、堺にいて実質京周辺を支配していた『堺公方』の義維は、阿波へと逃走する。

　晴元自身、義晴に含むところはなく、仕方なく、そのまま彼を十二代将軍として担ぐことになる。

　要は運………………すべて偶然の産物なのだ。