46 / 498
第一章「純愛の村」
46
しおりを挟む
「明智様とおえいが一緒になり、跡を継いでくれれば、権太を寺に預けることもできるだが………………」
姉が、和尚がまた何か言ってきたのかと尋ねると、源太郎は渋い顔をした。
「今日の昼に来て……」
十兵衛に用事があってきたらしい。
和尚も十兵衛かと、少々むっとなったが、しばらく山崎様のところに行っていると伝えた。
『うむ、そうであったか』
『何かございましたか?』
『いやなに、寺におる足軽どものことでな』
『何か、悪さでもしでかしましたか?』
『いや、特に。むしろ、ただで置かせてもらっているのでと、壊れたところを直してくれるし、力仕事をしてくれるので重宝しておるのだが、いったいいつまで置いておくのかと思うてな』
『その件でも、山崎様のところへと相談に』
『なるほど、では帰ってきたら、そう伝えてほしい』
畏まりましたと、源太郎は頭を下げた。
『ところで源太郎さん、あの話は如何であろう?』
『あの話?』
『権太を寺にとの話だ』
『ああ、そのことで……、ありがたい話ですが、権太は跡取りですので……』
『跡取りなら、おえいに婿を取らせればよいのでは?』
『はあ、まあ、そうですが……』
『権太も、五つか? 六つか? 早々に寺に上がらせた方がよかろう』
『まだ、早いかと思いますが……』
『なに、坊主になるのに、早いも遅いもござらん。早ければ、早い方がよい』
『はあ……』
『色よい返事、待っておりますぞ』
と、帰っていったらしい。
どうにもご熱心ですねと姉が言えば、
「全く生臭坊主で困る」
と、源太郎は吐き捨てるように言った。
「とはいえ、和尚の誘いを無碍に断るわけにもいかぬ」
で、十兵衛を跡取りして、権太を寺に上げようと思ったようだ。
「権太、寺に行くか?」
とんでもないと首を振った。
坊主になる気など、さらさらない。
将来は侍になるんだ。
いや、十兵衛の傍に居るんだ。
だから、寺に入るなど絶対に嫌だと………………とは言えないので、権太はただただ首を横に振り続けた。
「そうだろうな……」
父は、重たいため息を吐いた。
姉は、嬉しそうだった ―― その顔が酷く嫌らしく、憎たらしかった。
姉が、和尚がまた何か言ってきたのかと尋ねると、源太郎は渋い顔をした。
「今日の昼に来て……」
十兵衛に用事があってきたらしい。
和尚も十兵衛かと、少々むっとなったが、しばらく山崎様のところに行っていると伝えた。
『うむ、そうであったか』
『何かございましたか?』
『いやなに、寺におる足軽どものことでな』
『何か、悪さでもしでかしましたか?』
『いや、特に。むしろ、ただで置かせてもらっているのでと、壊れたところを直してくれるし、力仕事をしてくれるので重宝しておるのだが、いったいいつまで置いておくのかと思うてな』
『その件でも、山崎様のところへと相談に』
『なるほど、では帰ってきたら、そう伝えてほしい』
畏まりましたと、源太郎は頭を下げた。
『ところで源太郎さん、あの話は如何であろう?』
『あの話?』
『権太を寺にとの話だ』
『ああ、そのことで……、ありがたい話ですが、権太は跡取りですので……』
『跡取りなら、おえいに婿を取らせればよいのでは?』
『はあ、まあ、そうですが……』
『権太も、五つか? 六つか? 早々に寺に上がらせた方がよかろう』
『まだ、早いかと思いますが……』
『なに、坊主になるのに、早いも遅いもござらん。早ければ、早い方がよい』
『はあ……』
『色よい返事、待っておりますぞ』
と、帰っていったらしい。
どうにもご熱心ですねと姉が言えば、
「全く生臭坊主で困る」
と、源太郎は吐き捨てるように言った。
「とはいえ、和尚の誘いを無碍に断るわけにもいかぬ」
で、十兵衛を跡取りして、権太を寺に上げようと思ったようだ。
「権太、寺に行くか?」
とんでもないと首を振った。
坊主になる気など、さらさらない。
将来は侍になるんだ。
いや、十兵衛の傍に居るんだ。
だから、寺に入るなど絶対に嫌だと………………とは言えないので、権太はただただ首を横に振り続けた。
「そうだろうな……」
父は、重たいため息を吐いた。
姉は、嬉しそうだった ―― その顔が酷く嫌らしく、憎たらしかった。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説


1333
干支ピリカ
歴史・時代
鎌倉幕府末期のエンターテイメントです。
(現在の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』から、100年ちょい後の話です)
鎌倉や京都が舞台となります。心躍る激しい合戦や、ぞくぞくするようなオドロオドロしい話を目指そうと思いましたが、結局政治や謀略の話が多くなりました。
主役は足利尊氏の弟、直義です。エキセントリックな兄と、サイケデリックな執事に振り回される、苦労性のイケメンです。
ご興味を持たれた方は是非どうぞ!

大航海時代 日本語版
藤瀬 慶久
歴史・時代
日本にも大航海時代があった―――
関ケ原合戦に勝利した徳川家康は、香木『伽羅』を求めて朱印船と呼ばれる交易船を東南アジア各地に派遣した
それはあたかも、香辛料を求めてアジア航路を開拓したヨーロッパ諸国の後を追うが如くであった
―――鎖国前夜の1631年
坂本龍馬に先駆けること200年以上前
東の果てから世界の海へと漕ぎ出した、角屋七郎兵衛栄吉の人生を描く海洋冒険ロマン
『小説家になろう』で掲載中の拙稿「近江の轍」のサイドストーリーシリーズです
※この小説は『小説家になろう』『カクヨム』『アルファポリス』で掲載します

【完結】電を逐う如し(いなづまをおうごとし)――磯野丹波守員昌伝
糸冬
歴史・時代
浅井賢政(のちの長政)の初陣となった野良田の合戦で先陣をつとめた磯野員昌。
その後の働きで浅井家きっての猛将としての地位を確固としていく員昌であるが、浅井家が一度は手を携えた織田信長と手切れとなり、前途には様々な困難が立ちはだかることとなる……。
姉川の合戦において、織田軍十三段構えの陣のうち実に十一段までを突破する「十一段崩し」で勇名を馳せた武将の一代記。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した
若き日の滝川一益と滝川義太夫、
尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として
天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が
からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。

【架空戦記】蒲生の忠
糸冬
歴史・時代
天正十年六月二日、本能寺にて織田信長、死す――。
明智光秀は、腹心の明智秀満の進言を受けて決起当初の腹案を変更し、ごく少勢による奇襲により信長の命を狙う策を敢行する。
その結果、本能寺の信長、そして妙覚寺の織田信忠は、抵抗の暇もなく首級を挙げられる。
両名の首級を四条河原にさらした光秀は、織田政権の崩壊を満天下に明らかとし、畿内にて急速に地歩を固めていく。
一方、近江国日野の所領にいた蒲生賦秀(のちの氏郷)は、信長の悲報を知るや、亡き信長の家族を伊勢国松ヶ島城の織田信雄の元に送り届けるべく安土城に迎えに走る。
だが、瀬田の唐橋を無傷で確保した明智秀満の軍勢が安土城に急速に迫ったため、女子供を連れての逃避行は不可能となる。
かくなる上は、戦うより他に道はなし。
信長の遺した安土城を舞台に、若き闘将・蒲生賦秀の活躍が始まる。

永き夜の遠の睡りの皆目醒め
七瀬京
歴史・時代
近藤勇の『首』が消えた……。
新撰組の局長として名を馳せた近藤勇は板橋で罪人として処刑されてから、その首を晒された。
しかし、その首が、ある日忽然と消えたのだった……。
近藤の『首』を巡り、過去と栄光と男たちの愛憎が交錯する。
首はどこにあるのか。
そして激動の時代、男たちはどこへ向かうのか……。
※男性同士の恋愛表現がありますので苦手な方はご注意下さい
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる