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第一章「純愛の村」
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「明智様とおえいが一緒になり、跡を継いでくれれば、権太を寺に預けることもできるだが………………」
姉が、和尚がまた何か言ってきたのかと尋ねると、源太郎は渋い顔をした。
「今日の昼に来て……」
十兵衛に用事があってきたらしい。
和尚も十兵衛かと、少々むっとなったが、しばらく山崎様のところに行っていると伝えた。
『うむ、そうであったか』
『何かございましたか?』
『いやなに、寺におる足軽どものことでな』
『何か、悪さでもしでかしましたか?』
『いや、特に。むしろ、ただで置かせてもらっているのでと、壊れたところを直してくれるし、力仕事をしてくれるので重宝しておるのだが、いったいいつまで置いておくのかと思うてな』
『その件でも、山崎様のところへと相談に』
『なるほど、では帰ってきたら、そう伝えてほしい』
畏まりましたと、源太郎は頭を下げた。
『ところで源太郎さん、あの話は如何であろう?』
『あの話?』
『権太を寺にとの話だ』
『ああ、そのことで……、ありがたい話ですが、権太は跡取りですので……』
『跡取りなら、おえいに婿を取らせればよいのでは?』
『はあ、まあ、そうですが……』
『権太も、五つか? 六つか? 早々に寺に上がらせた方がよかろう』
『まだ、早いかと思いますが……』
『なに、坊主になるのに、早いも遅いもござらん。早ければ、早い方がよい』
『はあ……』
『色よい返事、待っておりますぞ』
と、帰っていったらしい。
どうにもご熱心ですねと姉が言えば、
「全く生臭坊主で困る」
と、源太郎は吐き捨てるように言った。
「とはいえ、和尚の誘いを無碍に断るわけにもいかぬ」
で、十兵衛を跡取りして、権太を寺に上げようと思ったようだ。
「権太、寺に行くか?」
とんでもないと首を振った。
坊主になる気など、さらさらない。
将来は侍になるんだ。
いや、十兵衛の傍に居るんだ。
だから、寺に入るなど絶対に嫌だと………………とは言えないので、権太はただただ首を横に振り続けた。
「そうだろうな……」
父は、重たいため息を吐いた。
姉は、嬉しそうだった ―― その顔が酷く嫌らしく、憎たらしかった。
姉が、和尚がまた何か言ってきたのかと尋ねると、源太郎は渋い顔をした。
「今日の昼に来て……」
十兵衛に用事があってきたらしい。
和尚も十兵衛かと、少々むっとなったが、しばらく山崎様のところに行っていると伝えた。
『うむ、そうであったか』
『何かございましたか?』
『いやなに、寺におる足軽どものことでな』
『何か、悪さでもしでかしましたか?』
『いや、特に。むしろ、ただで置かせてもらっているのでと、壊れたところを直してくれるし、力仕事をしてくれるので重宝しておるのだが、いったいいつまで置いておくのかと思うてな』
『その件でも、山崎様のところへと相談に』
『なるほど、では帰ってきたら、そう伝えてほしい』
畏まりましたと、源太郎は頭を下げた。
『ところで源太郎さん、あの話は如何であろう?』
『あの話?』
『権太を寺にとの話だ』
『ああ、そのことで……、ありがたい話ですが、権太は跡取りですので……』
『跡取りなら、おえいに婿を取らせればよいのでは?』
『はあ、まあ、そうですが……』
『権太も、五つか? 六つか? 早々に寺に上がらせた方がよかろう』
『まだ、早いかと思いますが……』
『なに、坊主になるのに、早いも遅いもござらん。早ければ、早い方がよい』
『はあ……』
『色よい返事、待っておりますぞ』
と、帰っていったらしい。
どうにもご熱心ですねと姉が言えば、
「全く生臭坊主で困る」
と、源太郎は吐き捨てるように言った。
「とはいえ、和尚の誘いを無碍に断るわけにもいかぬ」
で、十兵衛を跡取りして、権太を寺に上げようと思ったようだ。
「権太、寺に行くか?」
とんでもないと首を振った。
坊主になる気など、さらさらない。
将来は侍になるんだ。
いや、十兵衛の傍に居るんだ。
だから、寺に入るなど絶対に嫌だと………………とは言えないので、権太はただただ首を横に振り続けた。
「そうだろうな……」
父は、重たいため息を吐いた。
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