本能寺燃ゆ

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第一章「純愛の村」

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 十兵衛は、濁酒をぐっと煽った。

「うっ……、久々ですから、沁みわたりますな」

 年寄り連中が、祝いだからと十兵衛に飲んでくれと勧めた。

 呑み足りない年寄りたちは寺から下りると、早速に十兵衛を捕まえ、一杯やろうと連れていかれ、権太の屋敷に帰ってきたのは夜半になってで、手には酒壺を持っていた。

 土産にくれたという。

 それで二度目の祝い酒をやりながら、十兵衛は山でのことを話してくれた。

 酒が入っているのか、いつもより饒舌だった。

 ちなみに、八郎のほうは酒をやらなかった。

「匂いがどうも……」

 と、遠慮していた。

 山に入った十兵衛は、鉄砲持ちとともに、八郎が面白いやつがいると話した場所へと一目散に向かった。

 そして、連中に気とられぬように近づき、一発撃たせた。

 脅しのつもりだったらしい。

 銃声を聞けば、驚いて逃げる。

 戦慣れしている足軽連中であれば、不意を突かれれば、体制を立て直すために一度安全なとろこまで退くはず………………そこを一網打尽にしようと考えていたらしい。

 山は、八郎が事前に調べて熟知している。

 足軽がどこに逃げそうかも分かっていたので、そこに弓矢を持たせた若衆を配置して、逃げてきたら攻撃を仕掛けようとしたらしい。

 が、あのひょろりとした若者が放った一発が、男の右腿を貫通した。

 撃たれた男から『あっ!』と声があがり、崩れ落ちると、他の連中はそれで戦意が喪失したようだ。

『もはやこれまで』

 と、最期を決めたようだ。

 そこには女が二人ほどおり、彼女たちが脇差を取り出し首に押し当て、それを他の侍が介錯をしようとしていたので、『待て! 待て! 早まってはなりませぬ!』と、十兵衛が慌てて止めに入ったらしい。

「本日の一番手柄は、勘助殿ですな」

 火縄を預かっていたのは勘助といい、彼は自分が足軽を倒したのが信じられず、しばらく呆然としていたらしい。

「しかも、ただの足軽ではなく、立派な大将首ですから」

 太ももを撃たれた男は、三宅弥平次(みやけ・やへいじ)といい、十兵衛とは旧知の仲らしい。

 美濃の漆塗りの次男坊だったらしいが、彼も侍を夢見て各地を放浪 ―― このとき、十兵衛と会い、色々と情報をやりとりしていたそうだ。

 やがて、弥平次は美濃の斎藤道三に仕えることになり、何とか生活も安定した矢先、道三が息子の義龍に敗れ、また浪人の身になってしまった。

 義龍側にも伝手があったし、事実誘われたらしいが………………

「職人の息子のくせに、意外に義理堅いといいますか………………」

 主の敵に仕官するわけにはいかんと、浪人になったらしい。

「職人の息子だから、堅いんじゃないのか? その点、お前さんと大違いだ」

 八郎の言葉に、十兵衛は苦笑した。

 しばらく浪人をしていたが、義龍が亡くなり、道三の孫龍興の代になって再度誘いがあり、まあ、代替わりもしたし、このまま浪人をしていても埒があかないと、一念発起して仕官したらしい。

 その後は、持ち前の真面目さで出世し、あれよあれよという間に足軽大将にまでなって、一軍を任せられていたらしい。

 が、今回の織田侵攻には耐えきれず、というより斎藤氏の内部崩壊が原因で、弥平次もお伴を連れて命からがら逃げてきたようだ。
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