40 / 498
第一章「純愛の村」
40
しおりを挟む
「はじまった!」
村人たちが山のほうを凝視する ―― 年寄り連中は気にせず酒盛りをしている。
次は怒号か、はたまた銃声か?
庄屋以下、年寄りを除いて、源太郎たちは、まだか、まだかと固唾を呑んで見守っている。
権太も、十兵衛は大丈夫だろうかと、じっと山を見ていた。
が、いつまで経っても、次の銃声も、大きな声も、鳥のさえずりさえも聞こえてこなかった。
「どないした?」
「何があったんや?」
「いや、何も起こってないやん」
「まさか、負けたんやないやろうな?」
村人が騒めきだした。
「どないするんや、庄屋さん?」
そう聞かれた荘三郎は、いや、どうするって言われても………………と、険しい顔で源太郎を見た。
お前がどうにかしろと顔が言っている。
父は、こっちがどうにかして欲しいという顔をしていた。
そうこうしているうちに、大人たちが揉め出した。
うらは反対しただ、あいつらが勝手にやっただ、と責任逃れをする。
挙句に、全部十兵衛が悪いとなった。
「戦もまともにできんやつが、何が将軍か!」
「所詮その程度や。あいつの言うこと聞いたうらが阿保やったわ」
散々世話になったのに、この有様だ。
権太は、薄情な大人たちを軽蔑の目で見た。
大人は汚い………………
「そやけど、これからどないする?」
「山崎様に遣いを出すしかあるまい」
「田畑は仕方ないが、とりあえず寺に籠っておれば、命だけはなんとかなるやろう」
大人たちが今後のことで相談してると、ふとひとりの子どもが声をあげた。
「帰ってきた!」
子どもは、若衆が入っていった場所を指さす。
そこから、銃を手にした若者を先頭に、ぞろぞろと男たちが出てきた。
十兵衛や、八郎の姿も見える。
それとは別に、ぼろぼろの格好をした足軽数人が、疲れた足取りで跡をついて出てきた。
ひとりは負傷しているのか、男に肩を担がれ、右足を引き摺っている。
驚くことに、そのさらに後ろから、数人の女も出てきた。
大人たちは顔を見合わせる。
「勝った……のか?」
ひとりの男が、「お~い、勝ったか?」と、声をはると、先頭の若者が誇らしげな顔で火縄を掲げた。
大人たちがわっと沸いた。
女や子どもたちも喜んでいる。
権太も、無事な姿の十兵衛を見つけ、ほっと安堵した。
もちろん、姉も同じようだ。
当然だ、十兵衛が負けるわけない。
権太も、おえいも、そう信じていた。
勝った、勝ったと喜ぶ大人や女たちを尻目に、残念そうな顔をしたのは年寄り連中だった。
「なんや、もう終わりかい。やれやれ、もう少し呑めると思うたのにのう」
村人たちが山のほうを凝視する ―― 年寄り連中は気にせず酒盛りをしている。
次は怒号か、はたまた銃声か?
庄屋以下、年寄りを除いて、源太郎たちは、まだか、まだかと固唾を呑んで見守っている。
権太も、十兵衛は大丈夫だろうかと、じっと山を見ていた。
が、いつまで経っても、次の銃声も、大きな声も、鳥のさえずりさえも聞こえてこなかった。
「どないした?」
「何があったんや?」
「いや、何も起こってないやん」
「まさか、負けたんやないやろうな?」
村人が騒めきだした。
「どないするんや、庄屋さん?」
そう聞かれた荘三郎は、いや、どうするって言われても………………と、険しい顔で源太郎を見た。
お前がどうにかしろと顔が言っている。
父は、こっちがどうにかして欲しいという顔をしていた。
そうこうしているうちに、大人たちが揉め出した。
うらは反対しただ、あいつらが勝手にやっただ、と責任逃れをする。
挙句に、全部十兵衛が悪いとなった。
「戦もまともにできんやつが、何が将軍か!」
「所詮その程度や。あいつの言うこと聞いたうらが阿保やったわ」
散々世話になったのに、この有様だ。
権太は、薄情な大人たちを軽蔑の目で見た。
大人は汚い………………
「そやけど、これからどないする?」
「山崎様に遣いを出すしかあるまい」
「田畑は仕方ないが、とりあえず寺に籠っておれば、命だけはなんとかなるやろう」
大人たちが今後のことで相談してると、ふとひとりの子どもが声をあげた。
「帰ってきた!」
子どもは、若衆が入っていった場所を指さす。
そこから、銃を手にした若者を先頭に、ぞろぞろと男たちが出てきた。
十兵衛や、八郎の姿も見える。
それとは別に、ぼろぼろの格好をした足軽数人が、疲れた足取りで跡をついて出てきた。
ひとりは負傷しているのか、男に肩を担がれ、右足を引き摺っている。
驚くことに、そのさらに後ろから、数人の女も出てきた。
大人たちは顔を見合わせる。
「勝った……のか?」
ひとりの男が、「お~い、勝ったか?」と、声をはると、先頭の若者が誇らしげな顔で火縄を掲げた。
大人たちがわっと沸いた。
女や子どもたちも喜んでいる。
権太も、無事な姿の十兵衛を見つけ、ほっと安堵した。
もちろん、姉も同じようだ。
当然だ、十兵衛が負けるわけない。
権太も、おえいも、そう信じていた。
勝った、勝ったと喜ぶ大人や女たちを尻目に、残念そうな顔をしたのは年寄り連中だった。
「なんや、もう終わりかい。やれやれ、もう少し呑めると思うたのにのう」
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
陸のくじら侍 -元禄の竜-
陸 理明
歴史・時代
元禄時代、江戸に「くじら侍」と呼ばれた男がいた。かつて武士であるにも関わらず鯨漁に没頭し、そして誰も知らない理由で江戸に流れてきた赤銅色の大男――権藤伊佐馬という。海の巨獣との命を削る凄絶な戦いの果てに会得した正確無比な投げ銛術と、苛烈なまでの剛剣の使い手でもある伊佐馬は、南町奉行所の戦闘狂の美貌の同心・青碕伯之進とともに江戸の悪を討ちつつ、日がな一日ずっと釣りをして生きていくだけの暮らしを続けていた……
土方歳三ら、西南戦争に参戦す
山家
歴史・時代
榎本艦隊北上せず。
それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。
生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。
また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。
そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。
土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。
そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。
(「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です)
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる