本能寺燃ゆ

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第一章「純愛の村」

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「明智様は……、朝倉様のことをどう思われますか?」

 源太郎は、気になったことを尋ねてみた。

「大変頭の良い方かと。武術も達者でいらっしゃるようですので、武将としても申し分ないかと。室町や周りの国々の様子も良くご存じで、上手く立ちまわっていらっしゃる。ただ惜しむらくは、敦賀殿(宋滴)のような良き宿老がいないことでしょう。何事も、ひとりでやるには事が多すぎます。大野殿(景鏡)や山崎殿もいらっしゃいますが……」
 大野郡司である朝倉景鏡かげあきらは十代目孝景の弟である景高かげたかの息子であり、朝倉一門衆の筆頭格ではあるが、それを鼻にかけているところがあるのか、何かと他の家臣と衝突する、ときに義景すら下に見ていることがある、これはひょっとすればひょっとするところがあるので用心が必要である人物だ、と。

 山崎吉家は、家臣団のなかでは筆頭格で、歌も良くやり、宋滴亡き後、諸国との外交を一手に引き受けているおり、文武ともに優れた人物ではあるが、少々遠慮がちなところがあり、義景に代わって一族、家臣を取り纏めるのは難しいか、と。

 では、肝心の義景はというと………………

「いち武将としてみれば大変素晴らしい方ですが、上に立つ身であれば……」

 聊か度量が足りないらしい。

「いえ、決して将として劣っているというわけではないのです。その素質も十分お持ちで、人を纏め上げるだけの技量もおありです。が、あまりにも敦賀殿の存在が大きいものですから……」

 何事かあると、一族や家臣の口から

「宋滴殿がご存命ならば……」

「宋滴殿ならばこのような事態は……」

「宋滴殿なら……」

「宋滴殿は……」

 と、度々名があがる。

 十兵衛も実際に会ったことはないが、噂は聞いていた。

 中央にも大きな影響力があった。

 が、これほど人心に染み付いているとは思わなかった。

 今回の評定でも、度々宋滴の名が出て、義景もうんざりしているようだった。

「先代の存在があまりにも大きすぎると、次の者はその実力があっても、どうしても家臣たちから低く見られがちになります。六波羅(平氏)もそうですし、鎌倉(源氏)もそうでした。敦賀殿は先代当主とは立場が違いますが、朝倉家三代に渡って一族を支えてきた方ですから、余計に影響がありすぎます。敦賀殿の死後、本来でしたら、一門の筆頭である大野殿や山崎殿が、朝倉様を盛り立てていかねばならぬところでしょうが……」

 今のところ、それは期待できない。

 となると、義景自らが宋滴を上回るほどの実力を見せるか、一門衆・家臣団を抑え込まなければならないのだが、今の義景ではそこまでは難しいだろう。

「では、この越前が危ういと? 明智様は、そうお考えで?」

 源太郎の言葉に、十兵衛ははっきりと答えることもなく、ただ意味ありげな笑みをこぼした。
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