本能寺燃ゆ

第一章「純愛の村」

２７

　こうしている間にも、村の近くで足軽を見たとか、最初は二、三人だったのが、どんどん数が増えているとか、また村の娘が襲われたとか、挙句に何処何処の領主が攻めてくるとか、嘘か誠か分からないような話しまで出て、村は混乱していた。

　そんな七日目の昼、十兵衛が何食わぬ顔でひょっこりと戻ってきた。

　鍬や鋤、刀を持った若衆たちが集まって、殺られる前に、殺る、こちらから山に入って奴らを始末してやろうと相談しているところに姿を現した。

　毎度毎度、変なところで顔を出すなと源太郎は思った。

「何しに帰ってきた！」

　若衆の怒声が飛んだ。

　が、十兵衛はそれに臆することなく、

「良いものを持ってまいりました」

　と、肩に担いでいた長いものを取り出した。

　刀かなと思ったが、それは黒光りする鉄砲であった。

　見た瞬間、男たちから歓声というよりは、恐怖に近い驚きの声があがった。

「こ、こんなもの、どこで？」

「山崎様から借りてきました」

　正確には、吉延経由で口をきいてもらい、朝倉本家から借りてきたらしい。

「よく、このようなものを貸してくださいましたな」

　源太郎も、話は聞いていたが、初めて見た。

　どのぐらいするのだろう？

　百姓には、その価値さえも想像つかない。

　死ぬまで年貢を納めても買えないのではないだろうか？

　そんなものを領主が持っているのも驚いたが、そんな高価なものを借りてきた十兵衛にも驚いた。

　それだけ、吉延から信頼されているということか？

「山崎様も渋ってはおられましたが、村の現状を話しまして。それと、面白い話も聞いて参りました」

　庄屋の家で男衆に話したことを、源太郎の家に戻って権太やおえいにも聞かせてくれた。

　権太は、十兵衛が戻ってきたことに酷く驚き、安堵した。

　やはり十兵衛だと思った。

　一方のおえいは、いつものように十兵衛の足を洗い、飯の世話をする　――　うらは信じていましたよ……………という体で　――　あんなに十兵衛の筵で泣いていた癖に。