本能寺燃ゆ

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第一章「純愛の村」

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 娘のことは女たちに任せ、男たちは庄屋の屋敷に集まった。

「せやけど、村の近くに山賊がでるとは」

「いままで、そんなことなかったやん」

「えらいこっちゃ、どないする?」

「どないするって言うてもな……」

 頭を突き合わせていると、

「あれ、ほんまに山賊か?」

 逃げていこうとするやつらを追いかけていた若衆のひとりが言った。

「あれは、山賊とちゃうんやないか?」

「その男たちは、どんな格好をしていましたか?」

 それまで黙って聞いていた十兵衛が訊いた。

「どんなんって……」

 男は、斯く斯く云々と具に話す。

「それは……、足軽とか、雑兵では? まあ、山賊も足軽も、見た目はそれほど変わりませんが」

「足軽なら、どっかの殿様が雇ってるんやろう? となると……」

 庄屋を含め、男たちは嫌な想像をした。

 ―― 村が襲われる!

 山賊なら、街道の要所要所に屯し、そこを通る旅人や荷物を襲う。

 勝手に関所みたいなものを拵えて、通行料なるものを徴収する。

 山賊、海賊、野盗などは、古くから取り締まりの対象で、捕まれば重罪だが、いまだ少なくなったという話は聞かず、室町の力が弱くなってからは、ますます増えていくばかり。

 逆に、取り締まるはずの領主や地頭らが、通行料目当てに黙認し、裏で金を受け取っているのは、いつの世も理である。

 なかには、侍だったものが落ちぶれて山賊になることもあるのだが、それは「侍の習」といって容認されたらしい。

 ともかく、旅人にとっては厄介だが、集落に住むものにとっては、それほど面倒な輩ではない。

 ごくまれに山から下りてきて村人を襲ったりするが、大半は山に籠っている。

 逆に、村へと入る要所に山賊がいると、変な輩が入ってこなくて助かっている。

 百姓では食っていけないので、山に入ったものもいるし、その辺りは村と山賊、持ちつ持たれつなのだ。

 が、足軽はいただけない。

 それは、庄屋や源太郎、村人全員の一致した意見だ。

「あいつら、根こそぎ持っていきよる。山賊より質が悪いやん」

 村人全員頷いた。
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