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第一章「純愛の村」
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翌朝、十兵衛は出ていた。
寂しそうに背中を見送ったが、昼過ぎには帰ってきた。
源太郎は、目を白黒させて尋ねた。
「如何なされましたか?」
「いいえ、なに……」
十兵衛が源太郎の家を出てしばらく行くと、前の方から中年男が駆けてきたらしい。
男はこちらを気にすることなく、そのまま駆け去ったが、しばらくして戻ってきた。
荒い息をしながら、
「いまお伺いしようかと」
「どうかなされましたか?」
「おっかぁが!」
弥平のところの老母の体調が悪いらしい。
ここ数日元気がなく、食もあまりなかったが、昨日はずっと寝込んでいたらしい。
一晩様子を見たが、今朝は熱が出て、うんうんと唸っているとか。
薬草など試してみたが、あまり効果がない。
長老にも相談したが、もう年だしなぁ……と言われる始末。
確かに齢には勝てない。
人はいつか死ぬ。
その時期がきただけだ。
と言われれば、それはそうだが、子としては、親が苦しんでいるのを黙って見ている訳にはいかない。
それが、親思いの息子ならなおのことだろう。
どうにかする術はないかと考えていると、十兵衛のことが思いあたった。
と、朝早く十兵衛が泊まっている源太郎のところへ行こうとしたら、道でばたりと出くわしたらしい。
話を聞いた十兵衛はすぐに弥平の家に赴き、いままで老母を診ていたということだ。
「それはそれは難儀でしたな」
「少々疲れましたので、少し休ませてもらおうかと、申し訳ない」
「いえいえ、とんでもございません、ごゆるりと。それで、弥平のご母堂さんは?」
今日明日にでもということではないが、十分養生するようにと、薬を渡してきたという。
「もともと気虚のけがあるようなので、その辺を徐々に治していけば、良くなっていくでしょう」
「それはようございました」
一同安堵したところで、今日はどうするのかと源太郎は尋ねた。
「しばらく休んだら、また出ますので。世話になりました」
と、話しているところに、
「明智様はおるん?」
男が顔を出した。
「どうしました?」
「すんまへん、うらの男の子(ぼう)が……」
今度は、喜助のところの息子が熱を出したらしい。
「喜助、悪いけど、明智様は……」
源太郎が断ろうとしたが、
「それは大変」
と、十兵衛は一目散に家を出て、喜助のところへ向かった。
結局この日、十兵衛は屋敷に泊まることになった。
そんなことが、翌日以降も続いた。
今日帰りますというと、決まって相談事が持ち込まれる。
病人を診てくれとか、水路の水の流れが悪いだとか、喧嘩の仲裁事まで持ち込まれた。
源太郎は、「そんなことまでしなくても」と言うのだが、
十兵衛は、
「いや、ついでですから」
と、嫌な顔ひとつせずに、喧嘩の仲裁に行ったりする。
「うむ、あれでは将軍はおろか、城持ちも難しかいやろうな」
源太郎は、十兵衛の忙しそうな背中を見ながら、ひとり呟く。
権太は、そんな父の言葉に腹が立つ。
なぜ父がそんなことを言ったのか分からないが、十兵衛のほどの知識と技術、そして働き者ならば、必ずや将軍になれる、将軍は適わずとも城持ちにはなれると思っていた。
まあ、権太には、将軍がどんな人で、何をする人のかは分からなかったが。
寂しそうに背中を見送ったが、昼過ぎには帰ってきた。
源太郎は、目を白黒させて尋ねた。
「如何なされましたか?」
「いいえ、なに……」
十兵衛が源太郎の家を出てしばらく行くと、前の方から中年男が駆けてきたらしい。
男はこちらを気にすることなく、そのまま駆け去ったが、しばらくして戻ってきた。
荒い息をしながら、
「いまお伺いしようかと」
「どうかなされましたか?」
「おっかぁが!」
弥平のところの老母の体調が悪いらしい。
ここ数日元気がなく、食もあまりなかったが、昨日はずっと寝込んでいたらしい。
一晩様子を見たが、今朝は熱が出て、うんうんと唸っているとか。
薬草など試してみたが、あまり効果がない。
長老にも相談したが、もう年だしなぁ……と言われる始末。
確かに齢には勝てない。
人はいつか死ぬ。
その時期がきただけだ。
と言われれば、それはそうだが、子としては、親が苦しんでいるのを黙って見ている訳にはいかない。
それが、親思いの息子ならなおのことだろう。
どうにかする術はないかと考えていると、十兵衛のことが思いあたった。
と、朝早く十兵衛が泊まっている源太郎のところへ行こうとしたら、道でばたりと出くわしたらしい。
話を聞いた十兵衛はすぐに弥平の家に赴き、いままで老母を診ていたということだ。
「それはそれは難儀でしたな」
「少々疲れましたので、少し休ませてもらおうかと、申し訳ない」
「いえいえ、とんでもございません、ごゆるりと。それで、弥平のご母堂さんは?」
今日明日にでもということではないが、十分養生するようにと、薬を渡してきたという。
「もともと気虚のけがあるようなので、その辺を徐々に治していけば、良くなっていくでしょう」
「それはようございました」
一同安堵したところで、今日はどうするのかと源太郎は尋ねた。
「しばらく休んだら、また出ますので。世話になりました」
と、話しているところに、
「明智様はおるん?」
男が顔を出した。
「どうしました?」
「すんまへん、うらの男の子(ぼう)が……」
今度は、喜助のところの息子が熱を出したらしい。
「喜助、悪いけど、明智様は……」
源太郎が断ろうとしたが、
「それは大変」
と、十兵衛は一目散に家を出て、喜助のところへ向かった。
結局この日、十兵衛は屋敷に泊まることになった。
そんなことが、翌日以降も続いた。
今日帰りますというと、決まって相談事が持ち込まれる。
病人を診てくれとか、水路の水の流れが悪いだとか、喧嘩の仲裁事まで持ち込まれた。
源太郎は、「そんなことまでしなくても」と言うのだが、
十兵衛は、
「いや、ついでですから」
と、嫌な顔ひとつせずに、喧嘩の仲裁に行ったりする。
「うむ、あれでは将軍はおろか、城持ちも難しかいやろうな」
源太郎は、十兵衛の忙しそうな背中を見ながら、ひとり呟く。
権太は、そんな父の言葉に腹が立つ。
なぜ父がそんなことを言ったのか分からないが、十兵衛のほどの知識と技術、そして働き者ならば、必ずや将軍になれる、将軍は適わずとも城持ちにはなれると思っていた。
まあ、権太には、将軍がどんな人で、何をする人のかは分からなかったが。
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