本能寺燃ゆ

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第一章「純愛の村」

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 翌朝、朝早く十兵衛は出かけていった ―― 上流の村と交渉に行ったのだろう。

 帰ってきたときには日が落ち、もうすぐ明かりなしには歩けないという頃合いだった。

 着物は埃まみれで、草鞋は泥まみれ、その足も汚れている。

「これはこれは、如何いたしました?」

 源太郎は、十兵衛の酷い身なりに驚き、おえいにすぐに世話をさせた。

 姉は、十兵衛の汚れた足を洗ったり、着物を脱ぐ手伝いをしたりと、甲斐甲斐しく世話をしている。

「いやなに、暗くなってきたので先を急いでいたら、足を踏み外してしまいましてね」

 十兵衛は、けたけたと笑う。

「それはそれは難儀なことで。お怪我などなされませんでしたか?」

「何処も」

「それはようございました。この辺りは日が落ちるのがはようございます、できればお早くお帰りになられたほうが宜しいかと。上の村との話し合いも大事でしょうが」

「ん? うむ、左様ですな。気を付けまする」

 その日は余程疲れていたのか、十兵衛は粥を啜ったあと、すぐに床に入った。

 翌日も、十兵衛は日が明けきらないうちに出ていった。

 そして帰ってくるのは遅く ―― 昨日よりは若干早かったが。

「それほど話し合いは難儀しておるのですか?」

 源太郎が尋ねると、十兵衛は、

「ええ、まあ……」

 と、曖昧な返事しかせず、この夜も一杯の粥で腹を満たしたあと、早々に床に就いた。

 次の日も、朝から出かけていった。

 その日も遅くなると思った姉は、お昼にと握り飯を持たせた。

 白飯の握りである。

 源太郎は、大事な米だ、それでなくても自分たちは稗の粥を食べているのだ、白米の握り飯ではなく、稗の握り飯でいいのではないかと、おえいを嗜めた。

 だが姉は、明智様は村のために働いていらっしゃるのだからと、その日から毎日白米の握り飯を持たせた。

 権太も、それには賛成だった。
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