本能寺燃ゆ

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第一章「純愛の村」

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「殿様も、えらい遣いをよこしたもんや」

「やはり、わしうららでやらなあかやろう」

 と、男たちは口々に話している。

 が、女たちのほうは、

「あら、ええ男やないの」

「ほんま、旦那に欲しいわ」

 と、はしゃいでいる。

「なんも、何がええんや、あんな女子びいみたいの」

「どすべさが!」

 と、女たちが男を褒めはやすので、村の男たちは大きな声を出した。

 それが聞こえたのか、庄屋がこちらを見た。

 男もこちらを見る。

 涼やかな視線を向けられ、村の女たちからいっそう黄色い声があがり、男たちの歯ぎしりが聞こえた。

 庄屋は眉を顰めている。

 何か言われるかなと思っていると、

「源太郎、ちょいちょい」

 と、手招きして、父を呼んだ。

 権太の父 ―― 源太郎は、「わしうら?」と庄屋たちのもとに向かった。

 庄屋と男、そして源太郎が何やら話している。

 源太郎は、男にぺこぺこと頭を下げている。

 そのうち、男はにこりと笑って立ち上がり、源太郎とともにこちらにやってきた。

 散々男の悪口を言っていた男たちは急に大人しくなった。

 男は、門のところで振り返り、庄屋に頭を下げた ―― 武士には似つかわしくない、随分腰の低い人だと思った。

 庄屋の家を出ると、源太郎は男を促し、歩き出した。

 行先は、源太郎の家 ―― 権太の家のようだ。

 大人たちも、ぼそぼそと囁き合いながら源太郎と男の後に付いていく。

 その後ろを、女や子どもたちが付いていく。

 なんとも奇妙な行列が、埃も舞い上がらない畦道を進んでいく。

 男は興味深そうに、干上がった田んぼや、ぐったりとした畑、それを呆然と見下ろす村人たちを見回す。

 ときどき指を差しては、源太郎と話している。

 それを、後を付いていく大人たち、子ども、そして道すがら行き合った村人たちが興味津々に見守っていた。

 権太の家の前まで着くと、

「ここです」

 と、父が男に言った。

「お世話になります」

 男は頭を下げた。

 そこで、ようやく権太は父のもとへ駆け寄った。

「せがれの権太です。今日からうちでお世話をすることになった、明智殿だ」

 権太は、ちょっと首を前に出しただけだ。

「お世話になります」

 と、男は権太にまで丁寧に頭を下げた。

 顔をあげ、にこりと微笑んだ ―― きりりとした目元に、赤い口元が白い顔の中に咲いた一輪の花のようで、何とも艶やかであった。

 子どもながらに、見てはいけないものを見たような気がして、目を逸らしてしまった。

 それが、十兵衛………………明智十兵衛との出会いだった。
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