首切り女とぼんくら男

hiro75

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最終話

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 正月早々、岩沼領主は家臣たちに、『この度の騒動は国家老や叔父を信用し、国政を蔑ろにした余に責任がある』と詫びた。

 今後は、新たな国家老のもと、一致団結して豊かな国作りに邁進しようと誓いあった。

 領から藩への猟冠運動も止め、幕府や本家への賄賂も行わないと約束した。

 百姓たちは、重い年貢から解放されることになった。

 これも、槇田様のお陰だと喜んだ。

 そして、仁左衛門の壮絶な最期を見届けた者たちが、『彼こそ、正真正銘の侍である』と称えた。

 図らずも、仁左衛門は立派な武士として名を留めることとなる。

 佐伯家は、罪人を出したということで、しんみりとした正月を過ごした。

 父は、国家老が失脚したことを受け、隠居することを決意。

 男子のいない佐伯家は、由比が次の婿養子をとるまで、一度木場家が預かるような形になった。

 父は、早く次の婿をとせっつく。

 由比は、「私の婿になるなら、『ぼんくら』でないと、仁左衛門様以上の『ぼんくら』の方でしたら、お考えします」と。

 弟子の年賀挨拶もなかった。

 その代わり、百姓や職人たちが僅かばかりのものを持って挨拶にきた。

 由比は、稽古納めのときに門弟たちとするはずだった餅つきを、この者たちとし、振る舞った。

 寺の子どもたちも来て、美味しい、美味しいと舌鼓を打った。

 今年から、仁左衛門に代わり、由比が子どもたちに文字や算術を教えることになった。

 いまは、この子たちを立派に育て上げることが、由比の生き甲斐である。

 団子屋の娘が持ってきた焼き味噌団子を仏壇に供えながら、由比は仁左衛門に誓った。

「あなたが命をかけて守ったものを、今度は私が守っていきます。あの子たちを立派に育ててみせます。私、いま、なんだかすっごく遣り甲斐を感じているんです。きっと剣術よりも、こっちのほうが向いているかもしれません。私も、『ぼんくら』に生きていきます。あなたも、そちらで………………」

 由比は、眉の上に手をあてがい、空を見上げる。

 雲の上から、あの間抜けな笑顔がちらっと見えた気がした。(了)
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