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第19話
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宇音美に、息子との別れを悲しんでいる暇はなかった。
彼女は、義父や義母、残っていた蘇我一族や従者たちを集めると、
「戦はいたしません」
と宣言した。
「それでは、女王の軍門に下れというのですか? 何もせず、不名誉な死を迎えろというのですか? そなたは、この蘇我本家を滅ぼすつもりなのか?」
義母は、唾を飛ばして宇音美に迫った。
宇音美は、ゆっくりと首を振った。
「恭順の姿勢も示しません」
「では、どうしろというのです?」
宇音美は、かっと目を見開いた。
「蘇我家一同、自害いたします」
水を打ったように静まり返った。
義母は、あんぐりと口を開けて義理の娘を見ていたが、やがてわなわなと震えだし、顔を真っ赤にして激昂した。
「この醜女、馬鹿女が! 自害ですって? ああ、やっぱりお前は、蘇我家に不幸を運んでくる女だよ。不吉な女だよ。なんてことだい、よりによって自害だなんて。まるで罪を認めたようなもんじゃないかい。大臣家の人間が自害などできるか!」
義母は宇音美を激しく罵った。
が、宇音美は全く動じなかった。
「お義母さまに何と言われようとも、もうこれしか道はないのです。蘇我氏が生き残る道は」
「何が生き残る道か。これは滅びへの道ではないか。これならまだ、女王軍と戦って死んだほうがましです」
義母は、いまにも剣をとり、女王軍の真っ只へ切り込んでいくような勢いだった。
「お義母さま、お止めなさい! そんなこと、大郎さまは望んではおられません!」
「そなたに大郎の何が分かる。私は母親ですから、大郎の気持ちはよく分かります。あの子は、きっと敵討ちを待ち望んでいるはずです」
「そんなことは絶対にありません!」
宇音美は自信をもって答えた。
「大郎さまならば、きっと戦は望んでおられません。戦をして、いったい誰が喜ぶというのですか? いったい誰の名誉を守るというのですか? 蘇我ですか? 大郎さまですか? それとも、お義母さまの名誉ですか?」
義母はへなへなと座り込み、黙りこくった。
「戦をして、蘇我の名誉を守ったところで、いったい何になりましょう。戦をして喜ぶのは誰でしょうか? 戦をして迷惑を被るのは、いったい誰でしょうか? 民ではないですか? みな、思い出してください。大郎さまが、いつも民のことを考えていらっしゃったことを。大郎さまなら、民を苦しめる戦など絶対になさりませんわ」
一同は項垂れた。
「さりとて、逆臣の汚名を着せられて処刑されるのは嫌です。ならば、自らの手で死を選ぶしかないでしょう。それが、蘇我の名誉を守る唯一の手立てなのです」
嗚咽が広がっていった。
義父は、肩を上下に揺らして泣いていた。
義母は、床に頭を擦りつけ、板を掻き毟るように泣き喘いでいた。
「従者や侍女たちはお逃げなさい。お前たちまで、死出の道連れにするつもりはありません」
若い従者や侍女たちは、涙ながらに荷物を纏め、屋敷を出た。
長年勤めた者たちは、蘇我本家と運命をともにすると覚悟を決めた。
彼女は、義父や義母、残っていた蘇我一族や従者たちを集めると、
「戦はいたしません」
と宣言した。
「それでは、女王の軍門に下れというのですか? 何もせず、不名誉な死を迎えろというのですか? そなたは、この蘇我本家を滅ぼすつもりなのか?」
義母は、唾を飛ばして宇音美に迫った。
宇音美は、ゆっくりと首を振った。
「恭順の姿勢も示しません」
「では、どうしろというのです?」
宇音美は、かっと目を見開いた。
「蘇我家一同、自害いたします」
水を打ったように静まり返った。
義母は、あんぐりと口を開けて義理の娘を見ていたが、やがてわなわなと震えだし、顔を真っ赤にして激昂した。
「この醜女、馬鹿女が! 自害ですって? ああ、やっぱりお前は、蘇我家に不幸を運んでくる女だよ。不吉な女だよ。なんてことだい、よりによって自害だなんて。まるで罪を認めたようなもんじゃないかい。大臣家の人間が自害などできるか!」
義母は宇音美を激しく罵った。
が、宇音美は全く動じなかった。
「お義母さまに何と言われようとも、もうこれしか道はないのです。蘇我氏が生き残る道は」
「何が生き残る道か。これは滅びへの道ではないか。これならまだ、女王軍と戦って死んだほうがましです」
義母は、いまにも剣をとり、女王軍の真っ只へ切り込んでいくような勢いだった。
「お義母さま、お止めなさい! そんなこと、大郎さまは望んではおられません!」
「そなたに大郎の何が分かる。私は母親ですから、大郎の気持ちはよく分かります。あの子は、きっと敵討ちを待ち望んでいるはずです」
「そんなことは絶対にありません!」
宇音美は自信をもって答えた。
「大郎さまならば、きっと戦は望んでおられません。戦をして、いったい誰が喜ぶというのですか? いったい誰の名誉を守るというのですか? 蘇我ですか? 大郎さまですか? それとも、お義母さまの名誉ですか?」
義母はへなへなと座り込み、黙りこくった。
「戦をして、蘇我の名誉を守ったところで、いったい何になりましょう。戦をして喜ぶのは誰でしょうか? 戦をして迷惑を被るのは、いったい誰でしょうか? 民ではないですか? みな、思い出してください。大郎さまが、いつも民のことを考えていらっしゃったことを。大郎さまなら、民を苦しめる戦など絶対になさりませんわ」
一同は項垂れた。
「さりとて、逆臣の汚名を着せられて処刑されるのは嫌です。ならば、自らの手で死を選ぶしかないでしょう。それが、蘇我の名誉を守る唯一の手立てなのです」
嗚咽が広がっていった。
義父は、肩を上下に揺らして泣いていた。
義母は、床に頭を擦りつけ、板を掻き毟るように泣き喘いでいた。
「従者や侍女たちはお逃げなさい。お前たちまで、死出の道連れにするつもりはありません」
若い従者や侍女たちは、涙ながらに荷物を纏め、屋敷を出た。
長年勤めた者たちは、蘇我本家と運命をともにすると覚悟を決めた。
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