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第16話
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義母や国押たちが慌てて駆け寄り、扉が壊れんばかりに激しく叩いた。
「何をしているのです。出てきなさい。その子を渡しなさい」
「いえ、渡しませぬ。この子は蘇我家の道具ではありません。まして、お義母さまの玩具でもありません。この子は、私の子、腹を痛めた大事な子です」
「何を申すか! その子は大郎の子、蘇我本家の跡取りです。さあ、出てきなさい。その子を大将として、女王軍と戦うのです」
「なぜです? なぜ戦わなくてはならないのです。なぜ、この子でなければならないのです?」
「蘇我氏のためです。戦わなければ、蘇我本家は滅びるのですよ。さあ、あなたも蘇我氏の女ならば、その子を差し出すのです」
「お義母さまは酷い……、普段は私を疎んじていらっしゃるのに、こんなときだけ、蘇我家の女だなんて……」
「だって、あんた、そりゃ……」、義母は急に猫なで声で話しかけてきた、「ねえ、お聞きなさい、私があなたに辛く当ったのは、あなたが嫌いだからではありませんよ。大臣の妃として立派になって欲しくて、辛く接していたのですよ。あなたは、それを虐めとしか思わなかったでしょうが。あなたを、他家の女だと一度たりとも思ったことはありませんよ」
嘘だ、お義母さまは嘘をついていると宇音美は思った。
「だから、出ていらっしゃい。悪いようにしないから。第一、こんなこと、大郎が喜ぶと思いますか? 大郎ならきっと、わが子を大将にして、女王軍と戦ってくれと言うはずですよ。私の仇をとってくれと」
宇音美は、あああっと絶望的な溜息を漏らしながら、滑り落ちるように座り込んだ。
赤子は、狂ったように泣いている。
「しばらく、そこで考えなさい。そこは、大郎がよく使っていたお堂だから」
大事を決する前、入鹿はよくこのお堂に籠もり、思案に拭けっていた。
至るところに、入鹿の面影がある。
華美を嫌い、質素を好んだ性格は、飾り気のないお堂に表れている。
正面には、大広間にあった嫌らしい金ぴかの仏像ではなく、白木作りの簡素な仏像が安置されていた。
目を瞑り、すっと空気を吸うと、夫の匂いに抱かれているような安心感に満ち溢れた。
「もう大丈夫だから、泣かないで。ほら、お父さまの匂いがするでしょう。もう大丈夫だから」
宇音美は、泣く子をあやした。
「怖かったでしょう。もう少しで戦場に連れて行かれるところだったのよ。本当に酷いお義母さまだこと。まるで鬼婆ね」
宇音美は、扉のほうを振り返り、ぎっと睨みつけた。
「でも、もう大丈夫よ。お母さまが、必ずお前を守りますからね」
乳を含ませ、子守歌をうたってやって、ようやく赤子は大人しくなった。
「何をしているのです。出てきなさい。その子を渡しなさい」
「いえ、渡しませぬ。この子は蘇我家の道具ではありません。まして、お義母さまの玩具でもありません。この子は、私の子、腹を痛めた大事な子です」
「何を申すか! その子は大郎の子、蘇我本家の跡取りです。さあ、出てきなさい。その子を大将として、女王軍と戦うのです」
「なぜです? なぜ戦わなくてはならないのです。なぜ、この子でなければならないのです?」
「蘇我氏のためです。戦わなければ、蘇我本家は滅びるのですよ。さあ、あなたも蘇我氏の女ならば、その子を差し出すのです」
「お義母さまは酷い……、普段は私を疎んじていらっしゃるのに、こんなときだけ、蘇我家の女だなんて……」
「だって、あんた、そりゃ……」、義母は急に猫なで声で話しかけてきた、「ねえ、お聞きなさい、私があなたに辛く当ったのは、あなたが嫌いだからではありませんよ。大臣の妃として立派になって欲しくて、辛く接していたのですよ。あなたは、それを虐めとしか思わなかったでしょうが。あなたを、他家の女だと一度たりとも思ったことはありませんよ」
嘘だ、お義母さまは嘘をついていると宇音美は思った。
「だから、出ていらっしゃい。悪いようにしないから。第一、こんなこと、大郎が喜ぶと思いますか? 大郎ならきっと、わが子を大将にして、女王軍と戦ってくれと言うはずですよ。私の仇をとってくれと」
宇音美は、あああっと絶望的な溜息を漏らしながら、滑り落ちるように座り込んだ。
赤子は、狂ったように泣いている。
「しばらく、そこで考えなさい。そこは、大郎がよく使っていたお堂だから」
大事を決する前、入鹿はよくこのお堂に籠もり、思案に拭けっていた。
至るところに、入鹿の面影がある。
華美を嫌い、質素を好んだ性格は、飾り気のないお堂に表れている。
正面には、大広間にあった嫌らしい金ぴかの仏像ではなく、白木作りの簡素な仏像が安置されていた。
目を瞑り、すっと空気を吸うと、夫の匂いに抱かれているような安心感に満ち溢れた。
「もう大丈夫だから、泣かないで。ほら、お父さまの匂いがするでしょう。もう大丈夫だから」
宇音美は、泣く子をあやした。
「怖かったでしょう。もう少しで戦場に連れて行かれるところだったのよ。本当に酷いお義母さまだこと。まるで鬼婆ね」
宇音美は、扉のほうを振り返り、ぎっと睨みつけた。
「でも、もう大丈夫よ。お母さまが、必ずお前を守りますからね」
乳を含ませ、子守歌をうたってやって、ようやく赤子は大人しくなった。
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