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第12話
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「それだけじゃないらしいの」と、侍女たちはひそひそ話を続ける、「どうやら、石川臣さまも裏切ったようなのよ」
「まあ、石川臣さままでも?」
宇音美も口の中で、「石川臣さまも?」と呟き、眉を顰めた。
蘇我倉山田石川臣麻呂は、蝦夷の弟の息子、入鹿とは従弟同士にあたる。
石川家は、蘇我本家の次に有力な豪族である。
麻呂が裏切ったということは、蘇我一族が完全に分裂したことを意味していた。
「飛鳥寺に石川さまの旗が立っているそうよ。他の豪族方の旗もたくさん靡いているんですって」
「蘇我本家に味方なさるのは、東漢氏と高向臣さまだけ?」
「あとは、物部一族よ」
「あら、物部一族も分からないわよ。物部大臣さまが、古人大兄さまと物部一族を連れてくると出て行かれたけど、一向に戻る気配がないわよ」
「じゃあ、物部大臣さまも一族を裏切ったの? 実の家族を見捨てたの? 私たち、これからどうなるのよ。考えただけでも背中が寒くなるわ」
「どうして、こんなことになってしまったのかしら?」
「きまってるじゃない。全部、あの女のせいよ」
「あの女って?」
「宇音美さまよ。全部、宇音美さまのせいだわ」
聞き耳を立てていた女は、むっと眉を寄せた。
「奥さまがおっしゃってわ。あの女は、不幸を運んでくる女だって。蘇我氏に祟りをなす女だって。本当のことだったんだわ。私もそうだと思ったのよね。あの人の陰気な顔を見ると、こっちまで不幸になりそうで」
「しっ! 声が大きいわよ。いま、大広間にいらっしゃるのよ」
「まあ、祟られないうちに退散しましょう」
二つの足音が逃げていった。
宇音美は、胸元を鷲掴みにされ、握り潰されるような思いだった。
義母だけでなく、侍女たちにも侮蔑されている。
女としての自尊心が酷く傷つけられた。
怒りよりも、情けなさが込み上げ、宇音美はひとりしゃくりあげた。
「まあ、石川臣さままでも?」
宇音美も口の中で、「石川臣さまも?」と呟き、眉を顰めた。
蘇我倉山田石川臣麻呂は、蝦夷の弟の息子、入鹿とは従弟同士にあたる。
石川家は、蘇我本家の次に有力な豪族である。
麻呂が裏切ったということは、蘇我一族が完全に分裂したことを意味していた。
「飛鳥寺に石川さまの旗が立っているそうよ。他の豪族方の旗もたくさん靡いているんですって」
「蘇我本家に味方なさるのは、東漢氏と高向臣さまだけ?」
「あとは、物部一族よ」
「あら、物部一族も分からないわよ。物部大臣さまが、古人大兄さまと物部一族を連れてくると出て行かれたけど、一向に戻る気配がないわよ」
「じゃあ、物部大臣さまも一族を裏切ったの? 実の家族を見捨てたの? 私たち、これからどうなるのよ。考えただけでも背中が寒くなるわ」
「どうして、こんなことになってしまったのかしら?」
「きまってるじゃない。全部、あの女のせいよ」
「あの女って?」
「宇音美さまよ。全部、宇音美さまのせいだわ」
聞き耳を立てていた女は、むっと眉を寄せた。
「奥さまがおっしゃってわ。あの女は、不幸を運んでくる女だって。蘇我氏に祟りをなす女だって。本当のことだったんだわ。私もそうだと思ったのよね。あの人の陰気な顔を見ると、こっちまで不幸になりそうで」
「しっ! 声が大きいわよ。いま、大広間にいらっしゃるのよ」
「まあ、祟られないうちに退散しましょう」
二つの足音が逃げていった。
宇音美は、胸元を鷲掴みにされ、握り潰されるような思いだった。
義母だけでなく、侍女たちにも侮蔑されている。
女としての自尊心が酷く傷つけられた。
怒りよりも、情けなさが込み上げ、宇音美はひとりしゃくりあげた。
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