大兇の妻

hiro75

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第12話

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「それだけじゃないらしいの」と、侍女たちはひそひそ話を続ける、「どうやら、石川臣さまも裏切ったようなのよ」

「まあ、石川臣さままでも?」

 宇音美も口の中で、「石川臣さまも?」と呟き、眉を顰めた。

 蘇我倉山田石川臣麻呂そがのくらやまだのいしかわまろは、蝦夷の弟の息子、入鹿とは従弟同士にあたる。

 石川家は、蘇我本家の次に有力な豪族である。

 麻呂が裏切ったということは、蘇我一族が完全に分裂したことを意味していた。

「飛鳥寺に石川さまの旗が立っているそうよ。他の豪族方の旗もたくさん靡いているんですって」

「蘇我本家に味方なさるのは、東漢やまとのあやうじ氏と高向臣さまだけ?」

「あとは、物部一族よ」

「あら、物部一族も分からないわよ。物部大臣さまが、古人大兄さまと物部一族を連れてくると出て行かれたけど、一向に戻る気配がないわよ」

「じゃあ、物部大臣さまも一族を裏切ったの? 実の家族を見捨てたの? 私たち、これからどうなるのよ。考えただけでも背中が寒くなるわ」

「どうして、こんなことになってしまったのかしら?」

「きまってるじゃない。全部、あの女のせいよ」

「あの女って?」

「宇音美さまよ。全部、宇音美さまのせいだわ」

 聞き耳を立てていた女は、むっと眉を寄せた。

「奥さまがおっしゃってわ。あの女は、不幸を運んでくる女だって。蘇我氏に祟りをなす女だって。本当のことだったんだわ。私もそうだと思ったのよね。あの人の陰気な顔を見ると、こっちまで不幸になりそうで」

「しっ! 声が大きいわよ。いま、大広間にいらっしゃるのよ」

「まあ、祟られないうちに退散しましょう」

 二つの足音が逃げていった。

 宇音美は、胸元を鷲掴みにされ、握り潰されるような思いだった。

 義母だけでなく、侍女たちにも侮蔑されている。

 女としての自尊心が酷く傷つけられた。

 怒りよりも、情けなさが込み上げ、宇音美はひとりしゃくりあげた。
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