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第11話
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屋敷内は、野分が襲ってきたかのように騒がしくなった。
兵士たちは金属音を奏でながら走り回っている。
従者たちが廊下を右往左往している。
侍女たちは顔を合わせるとこそこそ話をする。
盗み聞きをするつもりはないのだが、あまりに声が大きいので耳に入ってしまう。
「林大臣さまを襲ったのは、葛城王子(中大兄皇子)さまらしいわよ」
「中臣さまもいたらしいわ」
話を繋ぎ合わせると、入鹿は儀式の最中に襲われたらしい。
襲ったのは数人で、その中に女王の息子である葛城王子もいたようだ。
大王家の王子・王女は、生まれるとすぐに各豪族に預けられ、生活の一切の支援を受けた。
大王家と豪族の繋がりを強化するのが目的である。
葛城王子は、蘇我一族である葛城家の支援を受けていた。
入鹿への襲撃は、蘇我本家に対する裏切りの何ものでもない。
ただ、葛城王子は素行が悪いことで有名だ。
入鹿がいつも苦言を呈していた。
それを逆恨みに思って入鹿を襲ったのであろう。
酷い所業だと、宇音美は葛城王子の首を締めるかのように、裳の裾を握り締めた。
葛城王子の裏切りよりも衝撃的だったのが、中臣連鎌子(中臣鎌足)が仲間に加わっていたことだ。
「あれほど、仲が良かったのに……」
ある日、入鹿が一人の男を連れてきた。
僧旻の講堂で出会ったという。
げじげじ眉毛で、浅黒く、背の低い男だった。
面白い男だった。
ひょうきんな顔をして、可笑しな話ばかりした。
入鹿は両頬を崩して笑った。
いままで、入鹿が客人を連れてくることなどなかったので驚いた。
鎌子の戯言に入鹿が笑っているので、いっそう驚いた。
ときには二人で、国や民の行く末を熱く論じた。
普段は酒をあまり飲まない入鹿も、鎌子が一緒だと痛飲した。
―― 鎌子さまを信頼なさっているのね。大郎さまにとって、鎌子さまは大切な存在なのね。
滅多に見せない入鹿の笑顔を見詰めながら、宇音美は鎌子の存在に感謝し、また嫉妬もした。
鎌子が、何故入鹿を裏切ったのか分からない。
いや、はじめから裏切るつもりで夫に近付いたのかもしれない。
襲撃者の中に鎌子の顔を認めたときの、夫の惨めな気持ちを察すると、宇音美は居た堪れない。
あの鎌子の、ひょうきんな顔をずたずたに引き裂いてやりたかった。
兵士たちは金属音を奏でながら走り回っている。
従者たちが廊下を右往左往している。
侍女たちは顔を合わせるとこそこそ話をする。
盗み聞きをするつもりはないのだが、あまりに声が大きいので耳に入ってしまう。
「林大臣さまを襲ったのは、葛城王子(中大兄皇子)さまらしいわよ」
「中臣さまもいたらしいわ」
話を繋ぎ合わせると、入鹿は儀式の最中に襲われたらしい。
襲ったのは数人で、その中に女王の息子である葛城王子もいたようだ。
大王家の王子・王女は、生まれるとすぐに各豪族に預けられ、生活の一切の支援を受けた。
大王家と豪族の繋がりを強化するのが目的である。
葛城王子は、蘇我一族である葛城家の支援を受けていた。
入鹿への襲撃は、蘇我本家に対する裏切りの何ものでもない。
ただ、葛城王子は素行が悪いことで有名だ。
入鹿がいつも苦言を呈していた。
それを逆恨みに思って入鹿を襲ったのであろう。
酷い所業だと、宇音美は葛城王子の首を締めるかのように、裳の裾を握り締めた。
葛城王子の裏切りよりも衝撃的だったのが、中臣連鎌子(中臣鎌足)が仲間に加わっていたことだ。
「あれほど、仲が良かったのに……」
ある日、入鹿が一人の男を連れてきた。
僧旻の講堂で出会ったという。
げじげじ眉毛で、浅黒く、背の低い男だった。
面白い男だった。
ひょうきんな顔をして、可笑しな話ばかりした。
入鹿は両頬を崩して笑った。
いままで、入鹿が客人を連れてくることなどなかったので驚いた。
鎌子の戯言に入鹿が笑っているので、いっそう驚いた。
ときには二人で、国や民の行く末を熱く論じた。
普段は酒をあまり飲まない入鹿も、鎌子が一緒だと痛飲した。
―― 鎌子さまを信頼なさっているのね。大郎さまにとって、鎌子さまは大切な存在なのね。
滅多に見せない入鹿の笑顔を見詰めながら、宇音美は鎌子の存在に感謝し、また嫉妬もした。
鎌子が、何故入鹿を裏切ったのか分からない。
いや、はじめから裏切るつもりで夫に近付いたのかもしれない。
襲撃者の中に鎌子の顔を認めたときの、夫の惨めな気持ちを察すると、宇音美は居た堪れない。
あの鎌子の、ひょうきんな顔をずたずたに引き裂いてやりたかった。
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