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第10話
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あの夜のことを思い出すと、いまも胸が激しく波打ち、下腹部がかっと熱くなる。
あれから数十年、幸せな日々を送ってきた。
もちろん、義母の嫌味や嫌がらせは幾度となく受けた。
『あんな地味な女では、大臣の妃は務まらない。他に妃を作りなさい』
義母は何度もすすめたが、入鹿は一笑したという。
複数の妃を持つのは当たり前 ―― 特に大臣ぐらいになると、他の豪族から娘を妃にどうかと勧誘があるのだが、入鹿は全て断ったという。
『そんなに断られては、他の豪族のみなさまも嫌な気分になりますし、娘さんも立場がありませんわ』
宇音美も心配して、他の妃を娶るようにすすめた。
入鹿は、そなたは、私が他の女のところに行って平気なのかと尋ねた。
『平気ですわ』と、嘯いた。
宇音美がそこまで言うのなら他に妃を娶ろうと、入鹿は一人、二人と指を折っていっき、十まで数えた。
『そ、そんなに。せめて、お一人か、お二人に……』
宇音美の慌てた様子に、入鹿は、本当は平気ではないのでしょうと笑った。
頬が熱い。
耳朶まで熱かった。
宇音美は、くるりと背中を向けた。
夫は、妃はそなた一人で十分だと、背中から宇音美を抱きかかえた。
『嬉しいです。でも、あなたのお子が……』
宇音美に子ができないのも、義母の怒りを買っていた。
『趣味が悪いだけでなく、子も産めないとは。蘇我の女の勤めは、たくさんの子を産むことです。男であれば大臣家を継がし、女であれば大王家に嫁がせる。あの女に、妃の資格はありません』
妻の資格というよりも、女そのものを否定されたようで、さすがの宇音美も悔しかった。
何とか赤子をと愛し合って、ようやく一年前に男子が誕生した。
これで、宇音美の風当たりも少しは弱まった。
―― もう、お義母さまに文句は言わせませんわ!
宇音美は幸せの絶頂にいた。
この幸せが永遠に続くものと思っていた。
しかし、一日にして吹き飛んだ。
あれから数十年、幸せな日々を送ってきた。
もちろん、義母の嫌味や嫌がらせは幾度となく受けた。
『あんな地味な女では、大臣の妃は務まらない。他に妃を作りなさい』
義母は何度もすすめたが、入鹿は一笑したという。
複数の妃を持つのは当たり前 ―― 特に大臣ぐらいになると、他の豪族から娘を妃にどうかと勧誘があるのだが、入鹿は全て断ったという。
『そんなに断られては、他の豪族のみなさまも嫌な気分になりますし、娘さんも立場がありませんわ』
宇音美も心配して、他の妃を娶るようにすすめた。
入鹿は、そなたは、私が他の女のところに行って平気なのかと尋ねた。
『平気ですわ』と、嘯いた。
宇音美がそこまで言うのなら他に妃を娶ろうと、入鹿は一人、二人と指を折っていっき、十まで数えた。
『そ、そんなに。せめて、お一人か、お二人に……』
宇音美の慌てた様子に、入鹿は、本当は平気ではないのでしょうと笑った。
頬が熱い。
耳朶まで熱かった。
宇音美は、くるりと背中を向けた。
夫は、妃はそなた一人で十分だと、背中から宇音美を抱きかかえた。
『嬉しいです。でも、あなたのお子が……』
宇音美に子ができないのも、義母の怒りを買っていた。
『趣味が悪いだけでなく、子も産めないとは。蘇我の女の勤めは、たくさんの子を産むことです。男であれば大臣家を継がし、女であれば大王家に嫁がせる。あの女に、妃の資格はありません』
妻の資格というよりも、女そのものを否定されたようで、さすがの宇音美も悔しかった。
何とか赤子をと愛し合って、ようやく一年前に男子が誕生した。
これで、宇音美の風当たりも少しは弱まった。
―― もう、お義母さまに文句は言わせませんわ!
宇音美は幸せの絶頂にいた。
この幸せが永遠に続くものと思っていた。
しかし、一日にして吹き飛んだ。
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