3 / 21
第3話
しおりを挟む
昨晩、夫が前触れもなくやってきた。
従者も連れていなかった。
突然の来訪に驚き、慌てふためいた。
構わなくてもよい,急にそなたの顔が見たくなったものだからと、入鹿は笑ったが、強張ったような笑顔だった。
顔も青白かった。
女が羨むような真っ白な肌なのだが、その夜は血の気が引いたように真っ青だった。
唇は紫色に変色していた。
『いかがなさいました? お加減でも悪いのですか?』
明日は大切な儀式があるが、あまり乗り気がしないと入鹿は愚痴を零した。
宇音美は驚いた。
夫が弱音を吐くなど珍しい。
どんなに体調が悪くても、どんなに仕事の進捗状況が芳しくなくても、妻の前では絶対に不満を漏らさない人だ。
夫は、国をまとめるという大切な仕事をしている。
民の暮らしを守るという大きな仕事をしている。
ときどき息抜きをなされてはどうですかと心配するのだが、その度に、私が休めば、それだけ多くの民が嘆くことになるのですと叱られた。
昨夜は、
『お疲れなのですよ。明日はお休みになられては?』
と誘うと、素直に従った。
いつもと違う入鹿の様子に、宇音美は戸惑いながらも、夜具の中に引きずり込まれ、夫の指先に身を委ねた。
愛撫も、いつもと様子が異なっていた。
普段は須恵器でも触るように優しく撫で回すのだが、昨夜に限っては宇音美の存在を確かめるように荒々しく求めた。
愛撫の途中で、私がいなくなったら、そなたはどうするかと、入鹿が唐突に訊いてきた。
宇音美は、不安げに入鹿を見た。
『どうして、そんなことを訊くのです? いやです、考えたくもありません』
宇音美は駄々っ子のように首を振った。
『嫌です、嫌です。大郎さまがいなくなるなんて、想像しただけでも恐ろしい。はぁぁ……、そんなことおっしゃらないで。あなたは、こうしていらっしゃるではないですか、私の中に』
宇音美の中に、入鹿の勃起した一物があった。
硬く、大きなそれは、どくどくと脈打っている。
夫はいる。
確かに宇音美の中にいる。
彼がいなくなるなど、考えられなかった。
宇音美は、夫の不吉な質問を打ち消すように激しく求めた。
入鹿も、いつも以上に燃えていた。
お互いの舌を噛み切るほど口付けを交わし、互いの陰部が引き裂けるほど腰を動かした。
全身の肉が蕩け、夫の肉と溶けあうほど愛し合った。
下腹部から湧き上がってきた甘い痺れは、やがて燃え滾る快感へと変わり、宇音美の体を悦びで満たした。
従者も連れていなかった。
突然の来訪に驚き、慌てふためいた。
構わなくてもよい,急にそなたの顔が見たくなったものだからと、入鹿は笑ったが、強張ったような笑顔だった。
顔も青白かった。
女が羨むような真っ白な肌なのだが、その夜は血の気が引いたように真っ青だった。
唇は紫色に変色していた。
『いかがなさいました? お加減でも悪いのですか?』
明日は大切な儀式があるが、あまり乗り気がしないと入鹿は愚痴を零した。
宇音美は驚いた。
夫が弱音を吐くなど珍しい。
どんなに体調が悪くても、どんなに仕事の進捗状況が芳しくなくても、妻の前では絶対に不満を漏らさない人だ。
夫は、国をまとめるという大切な仕事をしている。
民の暮らしを守るという大きな仕事をしている。
ときどき息抜きをなされてはどうですかと心配するのだが、その度に、私が休めば、それだけ多くの民が嘆くことになるのですと叱られた。
昨夜は、
『お疲れなのですよ。明日はお休みになられては?』
と誘うと、素直に従った。
いつもと違う入鹿の様子に、宇音美は戸惑いながらも、夜具の中に引きずり込まれ、夫の指先に身を委ねた。
愛撫も、いつもと様子が異なっていた。
普段は須恵器でも触るように優しく撫で回すのだが、昨夜に限っては宇音美の存在を確かめるように荒々しく求めた。
愛撫の途中で、私がいなくなったら、そなたはどうするかと、入鹿が唐突に訊いてきた。
宇音美は、不安げに入鹿を見た。
『どうして、そんなことを訊くのです? いやです、考えたくもありません』
宇音美は駄々っ子のように首を振った。
『嫌です、嫌です。大郎さまがいなくなるなんて、想像しただけでも恐ろしい。はぁぁ……、そんなことおっしゃらないで。あなたは、こうしていらっしゃるではないですか、私の中に』
宇音美の中に、入鹿の勃起した一物があった。
硬く、大きなそれは、どくどくと脈打っている。
夫はいる。
確かに宇音美の中にいる。
彼がいなくなるなど、考えられなかった。
宇音美は、夫の不吉な質問を打ち消すように激しく求めた。
入鹿も、いつも以上に燃えていた。
お互いの舌を噛み切るほど口付けを交わし、互いの陰部が引き裂けるほど腰を動かした。
全身の肉が蕩け、夫の肉と溶けあうほど愛し合った。
下腹部から湧き上がってきた甘い痺れは、やがて燃え滾る快感へと変わり、宇音美の体を悦びで満たした。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
空蝉
横山美香
歴史・時代
薩摩藩島津家の分家の娘として生まれながら、将軍家御台所となった天璋院篤姫。孝明天皇の妹という高貴な生まれから、第十四代将軍・徳川家定の妻となった和宮親子内親王。
二人の女性と二組の夫婦の恋と人生の物語です。

法隆寺燃ゆ
hiro75
歴史・時代
奴婢として、一生平凡に暮らしていくのだと思っていた………………上宮王家の奴婢として生まれた弟成だったが、時代がそれを許さなかった。上宮王家の滅亡、乙巳の変、白村江の戦………………推古天皇、山背大兄皇子、蘇我入鹿、中臣鎌足、中大兄皇子、大海人皇子、皇極天皇、孝徳天皇、有間皇子………………為政者たちの権力争いに巻き込まれていくのだが………………
正史の裏に隠れた奴婢たちの悲哀、そして権力者たちの愛憎劇、飛鳥を舞台にした大河小説がいまはじまる!!

縁切寺御始末書
hiro75
歴史・時代
いつの世もダメな男はいるもので、酒に、煙草に、博打に、女、昼間から仕事もせずにプラプラと、挙句の果てに女房に手を挙げて………………
そんなバカ亭主を持った女が駆け込む先が、縁切寺 ―― 満徳寺。
寺役人たちは、夫婦の揉め事の仲裁に今日も大忙し。
そこに、他人の揉め事にかかわるのが大嫌いな立木惣太郎が寺役人として赴任することに。
はじめは、男と女のいざこざにうんざりしていたが……………… 若き侍の成長と、男と女たちの痴情を描く、感動の時代小説!!
旧式戦艦はつせ
古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。
ライヒシュタット公の手紙
せりもも
歴史・時代
ナポレオンの息子、ライヒシュタット公フランツを巡る物語。
ハプスブルク家のプリンスでもある彼が、1歳年上の踊り子に手紙を? 付き人や親戚の少女、大公妃、果てはウィーンの町娘にいたるまで激震が走る。
カクヨムで完結済みの「ナポレオン2世 ライヒシュタット公」を元にしています
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885142129
なんか、あれですよね。ライヒシュタット公の恋人といったら、ゾフィー大公妃だけみたいで。
そんなことないです。ハンサム・デューク(英語ですけど)と呼ばれた彼は、あらゆる階層の人から人気がありました。
悔しいんで、そこんとこ、よろしくお願い致します。
なお、登場人物は記載のない限り実在の人物です
浅葱色の桜 ―堀川通花屋町下ル
初音
歴史・時代
新選組内外の諜報活動を行う諸士調役兼監察。その頭をつとめるのは、隊内唯一の女隊士だった。
義弟の近藤勇らと上洛して早2年。主人公・さくらの活躍はまだまだ続く……!
『浅葱色の桜』https://www.alphapolis.co.jp/novel/32482980/787215527
の続編となりますが、前作を読んでいなくても大丈夫な作りにはしています。前作未読の方もぜひ。
※時代小説の雰囲気を味わっていただくため、縦組みを推奨しています。行間を詰めてありますので横組みだと読みづらいかもしれませんが、ご了承ください。
※あくまでフィクションです。実際の人物、事件には関係ありません。
陸のくじら侍 -元禄の竜-
陸 理明
歴史・時代
元禄時代、江戸に「くじら侍」と呼ばれた男がいた。かつて武士であるにも関わらず鯨漁に没頭し、そして誰も知らない理由で江戸に流れてきた赤銅色の大男――権藤伊佐馬という。海の巨獣との命を削る凄絶な戦いの果てに会得した正確無比な投げ銛術と、苛烈なまでの剛剣の使い手でもある伊佐馬は、南町奉行所の戦闘狂の美貌の同心・青碕伯之進とともに江戸の悪を討ちつつ、日がな一日ずっと釣りをして生きていくだけの暮らしを続けていた……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる