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第五章「生命燃えて」 後編
第25話
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曇天である。
先ほどまで照らしていた日は今はなく、辺りを闇が包んでいる。
ひと雨来るのだろうか?
見上げると、雲の一部がぐるぐると渦を巻いている。
―― これはいかん、先を急ごう
駆けだそうとすると、足元に何かが纏わりついてくる。
なんだと見ると、手である。
―― えっ?
青白い手が、大地からにょっきりと生え、右足首をしっかりと掴んでいる。
右足だけではない、左足にも手が絡みついている。
よく見ると、辺り一面無数の手が生え、彼をいまにも捕まえようとしていた。
手を振りほどき、慌てて走る。
が、無数の手が追いかけてくる。
走る!
走る!
それでも手は追いかけてくる。
息もあがり、足も疲れて、手に捕まった。
無数の手が、男の身体を掴み、大地へと引きずり込もうとする。
足元が、まるで沼に嵌まり込んだように、ぐびぐびと気味の悪い音を立てて沈んでいく。
―― た、助けてくれぇ!
叫びたいが、声が出ない。
もう胸の辺りまで沈んでいる。
何かに捕まろうと、目いっぱい手を伸ばす。
はたと何かを掴む。
この感触は………………手だ!
だが、いままさに引きずりこもうとしている手とは感触が違う。
温かく、がっしりとした手 ―― 以前にも、どっかで掴んだような………………そうだ、この手は!
手は、男を引き上げてくれる。
沼から身体が少しづつ上がっていく。
―― 助かった!
そう思った瞬間だった。
するっと手が抜け、再び沼地へとぼちゃりと落ちた。
慌てて上を見ると、そこにはもう手はない。
ただ先ほどまで渦巻いていた雲が、人の目の形に変化し、ぎっと見下ろしている。
その眼は………………あの眼だ! あの時の!
睨みつけられたまま、どうすることもなく沼へと沈んでいった………………………………………………ところで目を覚ました。
知っている天井だ。
僅かに開かれた戸の間からは、驚くほど眩しい青空が見える。
―― 夢……だったか………………
ゆっくりと体を起こそうとしたが、全身が怠い。
酷い夢を見たせいか?
―― それとも、私もそろそろかな?
外からは鳥のさえずり、部屋の奥からは人の話し声が聞こえる。
「そろそろ……」とか、「覚悟のほうを……」とか ―― 薬師だろうか?
妻に、状況を話しているのだろう。
彼らも、そう思っているようだ。
なら、間違いない!
―― 私もそろそろ準備をしなくては………………
そう思ったところに、妻の鏡姫王が入ってきた。
見ると、目元が真っ赤だ。
きっと薬師の話を聞いて、涙を流したのだろう。
―― ああ、自分のために、こんなにも涙を流してくれる人がいる、私には勿体ない方だ。
妻が悲しまないよう、有りっ丈の笑顔を……疲れか、それとももうそんな体力もないのか、強張った笑顔になってしまったが……向けた。
その視線に気が付き、鏡姫王は慌てて涙に濡れた目元を袖で拭い、こちらも満面の笑顔で夫の寝台へと近づいた。
先ほどまで照らしていた日は今はなく、辺りを闇が包んでいる。
ひと雨来るのだろうか?
見上げると、雲の一部がぐるぐると渦を巻いている。
―― これはいかん、先を急ごう
駆けだそうとすると、足元に何かが纏わりついてくる。
なんだと見ると、手である。
―― えっ?
青白い手が、大地からにょっきりと生え、右足首をしっかりと掴んでいる。
右足だけではない、左足にも手が絡みついている。
よく見ると、辺り一面無数の手が生え、彼をいまにも捕まえようとしていた。
手を振りほどき、慌てて走る。
が、無数の手が追いかけてくる。
走る!
走る!
それでも手は追いかけてくる。
息もあがり、足も疲れて、手に捕まった。
無数の手が、男の身体を掴み、大地へと引きずり込もうとする。
足元が、まるで沼に嵌まり込んだように、ぐびぐびと気味の悪い音を立てて沈んでいく。
―― た、助けてくれぇ!
叫びたいが、声が出ない。
もう胸の辺りまで沈んでいる。
何かに捕まろうと、目いっぱい手を伸ばす。
はたと何かを掴む。
この感触は………………手だ!
だが、いままさに引きずりこもうとしている手とは感触が違う。
温かく、がっしりとした手 ―― 以前にも、どっかで掴んだような………………そうだ、この手は!
手は、男を引き上げてくれる。
沼から身体が少しづつ上がっていく。
―― 助かった!
そう思った瞬間だった。
するっと手が抜け、再び沼地へとぼちゃりと落ちた。
慌てて上を見ると、そこにはもう手はない。
ただ先ほどまで渦巻いていた雲が、人の目の形に変化し、ぎっと見下ろしている。
その眼は………………あの眼だ! あの時の!
睨みつけられたまま、どうすることもなく沼へと沈んでいった………………………………………………ところで目を覚ました。
知っている天井だ。
僅かに開かれた戸の間からは、驚くほど眩しい青空が見える。
―― 夢……だったか………………
ゆっくりと体を起こそうとしたが、全身が怠い。
酷い夢を見たせいか?
―― それとも、私もそろそろかな?
外からは鳥のさえずり、部屋の奥からは人の話し声が聞こえる。
「そろそろ……」とか、「覚悟のほうを……」とか ―― 薬師だろうか?
妻に、状況を話しているのだろう。
彼らも、そう思っているようだ。
なら、間違いない!
―― 私もそろそろ準備をしなくては………………
そう思ったところに、妻の鏡姫王が入ってきた。
見ると、目元が真っ赤だ。
きっと薬師の話を聞いて、涙を流したのだろう。
―― ああ、自分のために、こんなにも涙を流してくれる人がいる、私には勿体ない方だ。
妻が悲しまないよう、有りっ丈の笑顔を……疲れか、それとももうそんな体力もないのか、強張った笑顔になってしまったが……向けた。
その視線に気が付き、鏡姫王は慌てて涙に濡れた目元を袖で拭い、こちらも満面の笑顔で夫の寝台へと近づいた。
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