法隆寺燃ゆ

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第五章「生命燃えて」 中編

第16話

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 幾分気怠い気持ちで奴婢たちが集まっている場所にいくと、

「黒万呂!」

 と、母が抱き着いてきた。

 おいおいと泣き続ける。

「黒万呂、よう帰ってきた。しかも、こんなに立派になって……」

 父も大分年をとったが、まだまだ元気そうだ。

「兄ちゃん、お帰り!」

 弟の倉人万呂と若万呂は、見違えるほど大きくなっている。

「黒万呂、無事やったか!」

「よう生きとったの!」

「お前は、ワシらの誇りやど!」

 他の奴婢たちも、次々に声をかけてくる。

「おい、ワシの勝ちじゃ、ひとり一杯づつや」

 厩長の顔も見える。

 どうやら、黒万呂が帰ってくかどうかで賭けをしていたようだ。

「厩長、みんな黒万呂が帰ってくるほうに賭けとったんやから、驕りはなしやで」

「おお、そうか? ほな、今夜は黒万呂の帰還を祝って、ワシの驕りや」

 厩の奴婢たちから歓声があがる。

 人の生死を賭けごとにするなんて………………でも、みんな生きて帰ってきたことを喜んでくれている………………それが嬉しい。

 帰ってきて良かったんだと、初めて実感した。

「それにしても黒万呂、おまえ、なんちゅう恰好や? 兵士になったんか?」

 厩長たちは、黒万呂の挂甲姿を見て驚いている。

「ほんまや? 黒万呂、おまえ、いつ兵士になったんや?」

 抱き着いて泣いていた母も、驚いて顔をあげた。

 どうやら帰ってきた喜びのあまり、息子の姿をよく見ていなかったようだ。

「いや、これはちょっと訳があって……」

「なんや、格好ええやないか!」

「そんな恰好しとったら、もう黒万呂なんて呼び捨てできんやないか」

「もう黒万呂様やな」

「そんなこと言わないでくださいよ」

 と、笑って話していたら、

「ところで、弟成はどうした?」

 と、名前が出た。

「そうや、弟成はどこや?」

 みんな辺りを見回す。

「弟成は……」

 言いにくそうな黒万呂の表情に、みんな理解したようだ。

「そ、そうか……、まあ、しゃあない! これも運や! お前が帰ってきただけでも御の字や」

 と、厩長の言葉に、みんな「しゃあない、しゃあない」と、納得してくれた。

 無理に納得しようとしていたのかもしれないが、黒万呂は少し肩の荷が下りた気がした。
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