法隆寺燃ゆ

hiro75

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第四章「白村江は朱に染まる」 後編

第23話

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 二人が連れて行かれたのは、兵庫つわものくらであった。

「こいつらに、掛甲と剣を渡してやってくれ」

 大国は、弟成と黒万呂の二人に、掛甲と剣を渡してやった。

 弟成は、初めて本物の剣を手にした ―― 小さい頃、よく棒切れを振り回していたが、あれとは違う重みを感じる。

 そして彼の脳裏に、二十年前の忌まわしい記憶が蘇ってきた。

 ―― これで、兄は切り殺されたのだ。

    そして、その張本人は………………

 彼は剣を抜き、大国に切り掛かっていた。

 大国も、その殺気に気が付いたのか、咄嗟に剣を抜き、これを受けた。

 激しい金属音が、暗闇に響き渡る。

 弟成の目は燃えている ―― 松明の光のせいではない ―― 明らかに、殺意の炎である。

「お前……、やはりあの時の餓鬼だな?」

 大国は、弟成の目に、斑鳩寺で不意に飛び掛って来た子どもの目を思い出していた。

 弟成は、大国目掛けて数度剣を振り下ろす。

 その度に、激しい金属音と火花が飛び散る。

 黒万呂や兵士たちは、その凄まじさに手が出せない。

 数度目にして、弟成の剣は真っ二つに折れる。

 大国は、その瞬間を見過ごさなかった。

 彼の顔面に、拳を一発お見舞いした。

 それで全て終わった。
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