法隆寺燃ゆ

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第四章「白村江は朱に染まる」 後編

第12話

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 幾艘もの船が、漆黒の海に白波を立てながら進んで行く。

 帆は追い風を受け、はちきれんばかりだ。

 百済派遣の延期から半年近く、厳しい訓練に飽き飽きしていた男たちに、ようやく出航の命令が下ったのは、長雨があがり、太陽の顔を久しぶりに拝んだ日のことであった。

 弟成たち斑鳩寺の家人・奴婢は、その腕をかわれて、朴市秦田来津の乗船する船の漕ぎ手として編成された。

 漕ぎ手と言っても、船を漕ぐだけが仕事ではない。

 漕ぎ手が推進力として活躍するのは、湾内や沿岸、戦闘時の小回りを必要とする場所で、外洋に出れば帆を張り、風の力を利用して進むので、そこからは帆の扱いが彼らの重要な仕事となるのである。

 百済に派遣された兵士が、どのような船に乗っていたか明確に示す資料はない。

 日本の船の歴史は、丸太を刳り貫いた丸木舟から始まる。

 日本海側の縄文遺跡で、多くの丸木舟が発見されている。

 弥生時代の船の状況は、土器などに線刻画として残されており、複数の櫂を推進力としたゴンドラ型の船だということが分かる。

 またこの頃、丸木舟の舷側や船首、船尾に板が加えられた準構造船といわれる船が作られるようになった。

 これにより、より安全に外洋へと出ることができるようになる。

 古墳時代には、準構造船の埴輪が多く発見されている。

 特に平成十二(二〇〇〇)年に、三重県松阪市宝塚第一号墳で発見された国内最大級の船形埴輪は圧巻である。

 奈良・平安時代の外洋船の代表は、遣唐使船である。

 この遣唐使船は、全長約三十メートル・幅約八メートル、二本の帆を持った平底箱型船であった。

 平底箱型は名前のとおり、底が平らであったため、丸太を使う準構造船よりも多くの人員や物資を運搬することが可能であったが、反面波切りが悪く、強風や波浪に弱いという弱点があった。

 このため、多くの遣唐使船が海の藻屑となる。

 ただ、これはあくまで一要因であって、その他にも過積載や航海術の未熟が原因と挙げられている。

 では、百済に派遣された船は、この平底箱型船であったのだろうか? 

 それとも準構造船であったのだろうか?

 恐らくは、混在した部隊であったのだろう。

 運動性能は悪いが大量の物資・人員の運搬が可能な平底箱型と、輸送には向かないが運動性能の良い準構造船の混在部隊であったのだろう。
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