法隆寺燃ゆ

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第四章「白村江は朱に染まる」 後編

第3話

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 岸壁では、何百人という兵士が、二艘の舟の帰りを待っていた。

「見えた! 島を出たぞ!」

 兵士の指先には、並走する二艘の舟があった。

 歓声が上がる。

「すごかね、並走しちょっとよ!」

「やっぱ、一等候補の舟は違うわ」

 兵士たちが声援を送る。

 兵士たちだけではない。

 港で働く女たちや、見学に来ていた貴女や侍女の間からも黄色い声が上がる。

 船の中の男たちには、野太い声より黄色い声の方がありがたい。

「あと少し! いーち、に! いーち、に!」

 船長の声は、既に擦れている。

 男たちも、汗が滲む。

 照りつける太陽に、輝くのは水面だけだはない ―― 褐色に焼けた男たちの肌も、光り輝いている。

 その男たちの戦いを、小高い丘の上から見ている二人の男の姿がある。

 朴市秦田来津と大伴朴本大国である。

「僅かに右が速いか?」

 田来津は、額の上に両手を翳し、日差しを遮りながら言った。

「あの二艘、なかなか良い走りをするな」

 大国は、右手だけ翳している。

「両方、うちのだ」

 田来津は、自慢そうに親指を大国に突き出した。

「やはりな。しかし、実に良い兵士を持ったな」

「いや、左の舟は兵士だが、右の舟は荷方だ。それも、斑鳩寺いかるがのてら家人けにん奴婢ぬひ

「斑鳩寺の?」

「ああ、荷方としてうちに編成されたのだが、試しに櫂を握らせたら、めきめき上達してな。いまでは全軍の中でも、一、二を争う漕ぎ手となったわ」

「ほう……、それは、頼もしい」

「もうすぐ、決着がつくな。行くか?」

 田来津は、早足に丘を降りて行く。

 大国も、それに続いた。
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