法隆寺燃ゆ

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第四章「白村江は朱に染まる」 後編

第2話

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「左、櫂上げ!」

 船は、左に舵を切って行く。

 左舷の男たちは、櫂を水面から上げる。

 弟成も櫂を上げた。

 島を左に見ながら、船は水面を切って行く。

 右舷の男たちは、さらに力を込めて櫂を漕ぐ。

 船は、美しい円を描きながら島の周りを回って行く。

 左舷だけ櫂を上げれば、船は右舷の漕ぎ手の力で左へと進んで行く。

 右舷の男たちの顔が、一段と赤くなる。

 片舷だけでの航行は、漕ぎ手にとって地獄だ。

 黒万呂の顔が、厳しくなる。

 比べて、左舷は天国………………と言うわけでもない。

 一度休むと、調子が狂うものである。

 苦しくても、漕ぎ続ける方がいい。

 弟成は、島を廻るまでに呼吸を整える。

 もう一艘の舟は、後方を付いてくる。

 競り勝ったわけではない。

 弟成の舟と並走すれば、大回りになる ―― 後方に付き、島を廻り切った段階で前に出ようという作戦だ。

「左、櫂用意!」

 間もなく、島影から陸地が見えてくる。

 弟成は、腕を前に突き出した。

「前へ!」

 船長の鋭い号令が飛ぶ。

 左舷の男たちは、右舷の男たちとともに体を後ろに倒した。
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