法隆寺燃ゆ

hiro75

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第四章「白村江は朱に染まる」 中編

第7話

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「秦殿は、ご家族は?」

「はい、故郷に、妻と子がひとり」

「そうですか、奥様は美しい方なのでしょうね?」

「いえ、愚妻で困っております」

「愚妻だなんて。私は、奥様が羨ましいですわ」

「そうですか?」

「そうですよ。愛する人の故郷で、愛する人の子を儲け、愛する人の帰りを待つ。女として、これ程嬉しいことはありませんわ」

「女性だけではありません。男も、嬉しいものですよ。愛する人が、愛する子とともに故郷で帰りを待っていてくれるというのは」

 安媛は、田来津を見た。

 彼女の目尻は、ほんのりと赤みを帯びている。

「やはり、奥様が羨ましいです」

 彼女は、再び俯いた。

 その横顔は寂しいそうだ。

 一際強い風が、二人の間を吹き抜けていく。

 安媛の領巾が、風を孕んで棚引いた。

「風が冷たくなってきました。もう、城に戻りましょう」

「ええ……」

 二人は、城に通じる畝を歩きだした。

 同じ畝を、一頭の早馬が駆けて来る。

 蹄の音に気付き、道端に避けた。

 馬は土煙を上げて、二人の前を通り過ぎて行った。

「何かあったのでしょうか?」

 安媛は、不安な顔で田来津を見た。

「急ぎましょう」

 二人は、馬の足跡の上を急いだ。
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