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第四章「白村江は朱に染まる」 中編
第7話
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「秦殿は、ご家族は?」
「はい、故郷に、妻と子がひとり」
「そうですか、奥様は美しい方なのでしょうね?」
「いえ、愚妻で困っております」
「愚妻だなんて。私は、奥様が羨ましいですわ」
「そうですか?」
「そうですよ。愛する人の故郷で、愛する人の子を儲け、愛する人の帰りを待つ。女として、これ程嬉しいことはありませんわ」
「女性だけではありません。男も、嬉しいものですよ。愛する人が、愛する子とともに故郷で帰りを待っていてくれるというのは」
安媛は、田来津を見た。
彼女の目尻は、ほんのりと赤みを帯びている。
「やはり、奥様が羨ましいです」
彼女は、再び俯いた。
その横顔は寂しいそうだ。
一際強い風が、二人の間を吹き抜けていく。
安媛の領巾が、風を孕んで棚引いた。
「風が冷たくなってきました。もう、城に戻りましょう」
「ええ……」
二人は、城に通じる畝を歩きだした。
同じ畝を、一頭の早馬が駆けて来る。
蹄の音に気付き、道端に避けた。
馬は土煙を上げて、二人の前を通り過ぎて行った。
「何かあったのでしょうか?」
安媛は、不安な顔で田来津を見た。
「急ぎましょう」
二人は、馬の足跡の上を急いだ。
「はい、故郷に、妻と子がひとり」
「そうですか、奥様は美しい方なのでしょうね?」
「いえ、愚妻で困っております」
「愚妻だなんて。私は、奥様が羨ましいですわ」
「そうですか?」
「そうですよ。愛する人の故郷で、愛する人の子を儲け、愛する人の帰りを待つ。女として、これ程嬉しいことはありませんわ」
「女性だけではありません。男も、嬉しいものですよ。愛する人が、愛する子とともに故郷で帰りを待っていてくれるというのは」
安媛は、田来津を見た。
彼女の目尻は、ほんのりと赤みを帯びている。
「やはり、奥様が羨ましいです」
彼女は、再び俯いた。
その横顔は寂しいそうだ。
一際強い風が、二人の間を吹き抜けていく。
安媛の領巾が、風を孕んで棚引いた。
「風が冷たくなってきました。もう、城に戻りましょう」
「ええ……」
二人は、城に通じる畝を歩きだした。
同じ畝を、一頭の早馬が駆けて来る。
蹄の音に気付き、道端に避けた。
馬は土煙を上げて、二人の前を通り過ぎて行った。
「何かあったのでしょうか?」
安媛は、不安な顔で田来津を見た。
「急ぎましょう」
二人は、馬の足跡の上を急いだ。
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