180 / 378
第三章「皇女たちの憂鬱」 後編
第8話
しおりを挟む
瀧川政次郎氏は、律令時代の標準房戸(成人男子三人、成人女性五人、嬰児二人の計十人)の口分田(良民に与えられた公田)からの総収入を、現在の約七石五斗二升八合(約千三百五十八キログラム)と算出されている。
この十人が、一年間生活するための食稲が、約十石三斗八升六勺(約千八百七十三キログラム)必要であったというから、彼らが得ることができた収入は、生活を維持するための五分の三程度であったのである(瀧川政次郎『律令時代の農民生活』名著普及会)。
現在で言うと、年間支出に七百万円を必要とする家族が、年収四百二十万円で生活をしなければならないことと同じである。
一時期流行った「年収三百万円時代」で考えると、一年百八十万円で生活しなければならない。
もちろん、人は米だけで生きてはいけないので、山河から副食を得ていただろうが、それでも、『貧窮問答歌』が現実味を帯びてはこないだろうか。
国から田んぼが与えられるのだから、少なくとも安定した収入が得られるではないかと考える方もいようが、前述のとおり庶民の生活は大変圧迫していたのである。
律令下の農民の税金は、口分田から取れる稲、即ち租だけではない。
これに、庸調という副税が課せられる。
庸は賦役の代わりの税であり、調は田の面積に比する田税以外の税である。
その他、雑税として義倉(凶作に備えるための倉)・公出挙(利子付き消費貸借)、そして最も過酷な兵役があった。
兵役は、何十戸でひとりというように規定されていたが、最大の労働力である男子が徴収されるのである。
労働力を失った家は、どうやって食べていけばよいのだろうか?
この他に、権力者が労働力を欲した場合に、良民を徴収していたので、彼らの生活は、まさに国の税によって縛られていたことになる。
この十人が、一年間生活するための食稲が、約十石三斗八升六勺(約千八百七十三キログラム)必要であったというから、彼らが得ることができた収入は、生活を維持するための五分の三程度であったのである(瀧川政次郎『律令時代の農民生活』名著普及会)。
現在で言うと、年間支出に七百万円を必要とする家族が、年収四百二十万円で生活をしなければならないことと同じである。
一時期流行った「年収三百万円時代」で考えると、一年百八十万円で生活しなければならない。
もちろん、人は米だけで生きてはいけないので、山河から副食を得ていただろうが、それでも、『貧窮問答歌』が現実味を帯びてはこないだろうか。
国から田んぼが与えられるのだから、少なくとも安定した収入が得られるではないかと考える方もいようが、前述のとおり庶民の生活は大変圧迫していたのである。
律令下の農民の税金は、口分田から取れる稲、即ち租だけではない。
これに、庸調という副税が課せられる。
庸は賦役の代わりの税であり、調は田の面積に比する田税以外の税である。
その他、雑税として義倉(凶作に備えるための倉)・公出挙(利子付き消費貸借)、そして最も過酷な兵役があった。
兵役は、何十戸でひとりというように規定されていたが、最大の労働力である男子が徴収されるのである。
労働力を失った家は、どうやって食べていけばよいのだろうか?
この他に、権力者が労働力を欲した場合に、良民を徴収していたので、彼らの生活は、まさに国の税によって縛られていたことになる。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲
俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。
今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。
「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」
その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。
当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!?
姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。
共に
第8回歴史時代小説参加しました!
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
和ませ屋仇討ち始末
志波 連
歴史・時代
山名藩家老家次男の三沢新之助が学問所から戻ると、屋敷が異様な雰囲気に包まれていた。
門の近くにいた新之助をいち早く見つけ出した安藤久秀に手を引かれ、納戸の裏を通り台所から屋内へ入っる。
久秀に手を引かれ庭の見える納戸に入った新之助の目に飛び込んだのは、今まさに切腹しようとしている父長政の姿だった。
父が正座している筵の横には変わり果てた長兄の姿がある。
「目に焼き付けてください」
久秀の声に頷いた新之助だったが、介錯の刀が振り下ろされると同時に気を失ってしまった。
新之助が意識を取り戻したのは、城下から二番目の宿場町にある旅籠だった。
「江戸に向かいます」
同行するのは三沢家剣術指南役だった安藤久秀と、新之助付き侍女咲良のみ。
父と兄の死の真相を探り、その無念を晴らす旅が始まった。
他サイトでも掲載しています
表紙は写真ACより引用しています
R15は保険です
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる