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第三章「皇女たちの憂鬱」 中編
第14話
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一方、有間皇子の大王に対する熱心な紀温湯行幸の上申に、疑問を抱いていた人物もいた。
中大兄である。
彼は、飛鳥が空になる瞬間に、有間皇子が何らかの行動を起こすのではないかと考え、飛鳥の留守官として蘇我赤兄を、有間皇子の監視役に守大石と坂合部薬を置いた。
ここに、有間皇子事件の関係者たちが出揃う。
紀温湯に来た間人皇女は、久々に気分が良かった。
湯の効能もあろうが、それだけではない。
―― 有間皇子から書状が届いたのだ!
それは、『もうしばらくの辛抱で、晴れて夫婦になれる』というものであった。
彼女には深い意味は分からなかったが、有間皇子との夫婦生活を夢見て心躍っていた。
周囲の人間は、彼女の喜びを見て、湯の効能があったと勘違いしたが、中大兄の眼はごまかせなかった。
彼は、間人皇女の侍女を使い、事の原因を探らせたのである。
そして、その原因が有間皇子にあると知り、彼は激怒した。
それは兄としての怒りではなく、間人皇女を他の男に取られたという嫉妬であった。
彼は、間人皇女を追及した。
彼女は初めは嘯いていたが、あまりの中大兄の追求に、最後にはムキになって有間皇子との関係を正当化しようとした。
「なぜだ、間人? なぜ、有間なのだ? 私だって、お前を愛しているのだぞ!」
中大兄は、強く間人皇女の腕を掴む。
彼女は怖かった。
「いや、兄様放して! 私は、有間でなければ駄目なの!」
「私だって、お前でなければ駄目なのだ。小さい頃から、ずっとお前を見てきた。妹であるお前を、誰よりも想ってきたのだぞ! お前が妹でなければと、何度考えてきたことか。だが、お前は軽皇子のもとに行った。どんなに私が辛かったか。私も他の女と夫婦の関係を持ったが、お前以上の女はいないのだよ。お前でなければ満たされないのだ」
間人皇女は、中大兄の目に狂気を見た。
「汚らわしい!」
彼女は、中大兄を突き飛ばすと、その場を走り去った。
突き飛ばされた中大兄の怒りは、有間皇子に向けられる。
中大兄である。
彼は、飛鳥が空になる瞬間に、有間皇子が何らかの行動を起こすのではないかと考え、飛鳥の留守官として蘇我赤兄を、有間皇子の監視役に守大石と坂合部薬を置いた。
ここに、有間皇子事件の関係者たちが出揃う。
紀温湯に来た間人皇女は、久々に気分が良かった。
湯の効能もあろうが、それだけではない。
―― 有間皇子から書状が届いたのだ!
それは、『もうしばらくの辛抱で、晴れて夫婦になれる』というものであった。
彼女には深い意味は分からなかったが、有間皇子との夫婦生活を夢見て心躍っていた。
周囲の人間は、彼女の喜びを見て、湯の効能があったと勘違いしたが、中大兄の眼はごまかせなかった。
彼は、間人皇女の侍女を使い、事の原因を探らせたのである。
そして、その原因が有間皇子にあると知り、彼は激怒した。
それは兄としての怒りではなく、間人皇女を他の男に取られたという嫉妬であった。
彼は、間人皇女を追及した。
彼女は初めは嘯いていたが、あまりの中大兄の追求に、最後にはムキになって有間皇子との関係を正当化しようとした。
「なぜだ、間人? なぜ、有間なのだ? 私だって、お前を愛しているのだぞ!」
中大兄は、強く間人皇女の腕を掴む。
彼女は怖かった。
「いや、兄様放して! 私は、有間でなければ駄目なの!」
「私だって、お前でなければ駄目なのだ。小さい頃から、ずっとお前を見てきた。妹であるお前を、誰よりも想ってきたのだぞ! お前が妹でなければと、何度考えてきたことか。だが、お前は軽皇子のもとに行った。どんなに私が辛かったか。私も他の女と夫婦の関係を持ったが、お前以上の女はいないのだよ。お前でなければ満たされないのだ」
間人皇女は、中大兄の目に狂気を見た。
「汚らわしい!」
彼女は、中大兄を突き飛ばすと、その場を走り去った。
突き飛ばされた中大兄の怒りは、有間皇子に向けられる。
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