法隆寺燃ゆ

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第二章「槻の木の下で」 後編

第10話

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 年を越すということで、斑鳩寺では、僧侶・沙彌・家人・奴婢たち総出で一年の埃を払い落とすこととなった。

 弟成も、黒万呂とともに、寺の大掃除に駆り出された。

 とは言っても、弟成たち奴婢が、寺の中に入ることはできない。

 彼らの仕事は、寺を取り囲む築地の埃を落とすことである。

 特に年長で、体重の軽い弟成や黒万呂たちの仕事は、築地の瓦の上に登らされて、埃を払い落とすことであった。

 弟成は、黒万呂とともに築地の上に登って埃を落とした。

 だが黒万呂は、どうも心ここにあらずである。

 八重女がいなくなってから、黒万呂は毎日大きなため息をついてばかりで、何をやらせても身が入っていないようだ。

 築地の上でも大きなため息を付き、時には何度か屋根から落ち掛かって、その都度弟成が注意していた。

 が、黒万呂の余所見が五度目に達した時、流石に下から、

「こら、黒万呂、お前は下に降りて来い!」

 と怒られて、彼は屋根瓦を降りることとなった。

 あれが恋というものだろうか? と弟成は思った。

 築地の上には、多くの家人や奴婢の子供たちが埃を掃き落としている。

 寺の中でも、僧侶や沙彌たちが忙しく立ち回っていた。

 築地の上に登り、近くに寺を見るのは初めてであった。

 黒い屋根瓦を支える真っ赤な柱。

 その柱を繋ぐ真っ白な壁。

 そこは、弟成がいままで見たことのない空間であった。

 そして、彼の心を引き付けて止まない大きな塔は、今日も青空を支え続けていた。

 ―― ああ、一度だけで良いから、この中を歩けたら………………

 弟成はそう思ったのだが、それは奴婢には叶わぬ夢だった。
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