法隆寺燃ゆ

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第二章「槻の木の下で」 中編

第13話

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 決行の段取りが決まった。

 六月十二日、飛鳥板蓋宮あすかいたぶきのみやで執り行われる三韓進調儀の最中に実施することとなった。

 三韓進調儀とは、新羅・高句麗・百済の使者の朝貢及び献上品等を、大王に上奏する儀式である。

 が、この儀式、もちろん蘇我入鹿を誘い出す、偽りの儀式であった。

 決行の四日前、男たちは最終調整のために集った。

「大王の御裁可は頂きました」

 軽皇子が、集った重臣たちに言った。

「如何でしたか、大王は本気になされましたか?」

「最初は訝っておいででしたが、中臣連の話を聞いたら、後は我々に任せると」

「それはようござりました。これで、何も怖いものはありません」

 阿倍内麻呂は、安堵の顔をした。

「それでは、最終的な確認を致しましょうか?」

 大伴長徳は、飛鳥板蓋宮の図面を取り出すと、当日の計画を説明し始めた。

 全ての計画は、この長徳が立てた。

「まず斬り込み隊ですが、ここに控えます二名、我が一族の佐伯連子麻呂さえきのむらじのこまろ海犬養連勝麻呂あまのいぬかいのむらじのかつまろが行います」

 長徳の後ろに控えていた子麻呂と勝麻呂が、頭を下げた。

「その際の現場指揮官として、葛城様、よろしくお願いします」

「私の従者を連れて行って良いか? 葛城稚犬養連網田かつらきのわかいぬかいのむらじのあみたと言うのだが、武術に優れたヤツだ」

 葛城皇子は長徳に訊いた。

「それは構いません。それでは、斬り込み隊は三人と言うことで……、では……」

「私も、参加させて頂けないでしょうか?」

 鎌子の言葉に、長徳だけでなく誰もが驚いた。

「中臣殿がですか? それは、お止めになった方がよろしいですよ。中臣殿は実戦経験もありませんし」

「お願いします、どうしても林大臣を討ちたいのです」

 鎌子の入鹿に対する思いは、既に憎しみとなっていた。

「それに、私は林大臣と親交がありました。私は、彼のことをよく知っています」

 確かに、さもありなんと誰もが思った。

「分かりました。それでは、中臣殿は、葛城様の護衛ということで宜しいですか?」

「私に護衛はいらんぞ」

「念のためです。では、当日の流れですが……」

 計画はこうだ。

 三韓進調儀は、大殿の前の庭で執り行われるので、当日朝早く、斬り込み隊はその大殿の床下に身を潜める。

 入鹿が帯刀している剣は、大王の命として大門前で外させる。

 儀式は、蘇我倉麻呂の上表文の奏上で始まるが、彼が読み始めたら各門を守る氏族に門を一斉に閉めさせ、正面の大門に結集して待機させる。

 そして、上表文も半分になったところで、斬り込み隊は入鹿に斬り掛かり、これを捉える。

 この時、葛城皇子は大王に入鹿の大罪を上奏し、大王から蘇我征伐の裁可を頂いて、入鹿を切る。

 その後は、速やかに蘇我の庇護を受ける飛鳥寺を制圧し、甘檮丘を取り囲み、大王の命により蘇我一族を一気に追い込むというものであった。

「これで、宜しいかな?」

 麻呂は、皆に同意を求めた。

 皆頷いた。

「それでは、長年の蘇我体制に終止符を打ち、われら摂津・河内・和泉連合の新体制の幕が開ける時が来ましたぞ」

 麻呂は高らかに笑った。
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