法隆寺燃ゆ

hiro75

文字の大きさ
82 / 378
第二章「槻の木の下で」 前編

第14話

しおりを挟む
 鎌子は、三嶋に来て以来腐っていた。

 父や兄は、中臣の繁栄だと都合の良いことを言っているが、結局、いいように言い包めて厄介払いしたに違いない。

 彼は、自暴自棄になっていた。

 もう勉強をする気もない。

 どうせ、俺はこの地で死んでいくのだ。

 毎日、昼過ぎまで寝ていた。

 起きても、体中が重くて何もする気がしない。

 戸も締め切り、ごろごろと転がっていた。

 それでも夜になると、ふらふらと起き上がり、馬を飛ばして難波津の盛り場に繰り出した。

 そこで、酒を浴びるほど飲んだ。

 彼は、酒好きであった。

 しかし、三嶋に来てからの酒は不味い。

 それでも、彼は流し込むように飲んだ。

 そして、浴びるほど飲んだ後は、馴染みの女と奥に入って行く。

 結局、屋敷に帰るは明け方近くになり、また昼まで寝るという悪循環であった。

 そんな彼の行動は、三嶋だけでなく、飛鳥にまで伝わり、人々の噂に上がった。

 飛鳥の父や兄から再三の書状が届いたが、彼は封を解くことすらしなかった。

 母の智仙娘も小言を言いに駆けつけたが、彼は会おうともせず、酒と女に溺れていった。

「あんた、変わったわ。飛鳥に行ったから、ちょっとはええ男になって帰って来たかと思うたけど、見込み違いやわ。まだ、港で荷方やってた方が、ええ男やったわ」

 こんなことを言ったのは、昔から付き合いのある女 ―― 赤根売あかねめだった。

「俺が変わった? どこが?」

 鎌子は、相変わらず酔っ払っている。

「あんたの目、死どるわ」

 女は、鎌子の目を見た。

「ちぇっ、知った風に言うな。お前に何が分かるてんだ」

 酒屋の一室の派手な夜具に潜る二人。

 外は、雪が降っている。

「分かるわ。うち、いまのあんた嫌いやもん」

 女は夜具から抜け出し、火桶に手を翳した。

「けっ、嫌いも好きもあるものか。食うために男と寝る女が」

 鎌子は、女を夜具に引きずり込もうとする。

「うちらはね、体張って生きてんねん! それのどこが悪いねん! あんたらのように、毎日寝てても生活できるような連中とは違うんや! それに、こちだって人間や。嫌な人間には、生活のためやろうがなんやろうが、指一本触れさせへんで!」

「うるせい、このアマ」

 鎌子は、赤根売の着物を脱がせようとした。

 女の白い肩が、闇夜に浮き上がる。

「放して!」

 女は、鎌子を突き飛ばした。

 突き飛ばされた鎌子は、酔っ払った足で倒れこむと、そのまま動かなくなってしまった。

「ちょっと……、兄さん? 大丈夫? ちょいと……」

 返事はない。

 赤根売は恐ろしくなった。

 まさか………………

 すると、男の口から鼾が聞こえてきた。

 それも部屋中に響き渡るような。

 女は、ほっとした。

「なんやねん、そんなに酔っ払って。そんなんで女を抱こうとしたやなんて、だらしないわ。飛鳥でなんがあった知らんけど、ええわ、今日はごっつう休んだらええわ」

 女は、高鼾で寝ている鎌子に、そっと夜具を掛けてやるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

天竜川で逢いましょう 〜日本史教師が石田三成とか無理なので平和な世界を目指します〜

岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。 けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。 髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。 戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!!??? そもそも現代人が生首とか無理なので、平和な世の中を目指そうと思います。

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

影武者の天下盗り

井上シオ
歴史・時代
「影武者が、本物を超えてしまった——」 百姓の男が“信長”を演じ続けた。 やがて彼は、歴史さえ書き換える“もう一人の信長”になる。 貧しい百姓・十兵衛は、織田信長の影武者として拾われた。 戦場で命を賭け、演じ続けた先に待っていたのは――本能寺の変。 炎の中、信長は死に、十兵衛だけが生き残った。 家臣たちは彼を“信長”と信じ、十兵衛もまた“信長として生きる”ことを選ぶ。 偽物だった男が、やがて本物を凌ぐ采配で天下を動かしていく。 「俺が、信長だ」 虚構と真実が交差するとき、“天下を盗る”のは誰か。 時は戦国。 貧しい百姓の青年・十兵衛は、戦火に焼かれた村で家も家族も失い、彷徨っていた。 そんな彼を拾ったのは、天下人・織田信長の家臣団だった。 その驚くべき理由は——「あまりにも、信長様に似ている」から。 歴史そのものを塗り替える——“影武者が本物を超える”成り上がり戦国譚。 (このドラマは史実を基にしたフィクションです)

処理中です...