法隆寺燃ゆ

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第一章「宿命の子どもたち」 後編

第24話

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 あの日以来、蘇我入鹿は屋敷の敷地内にある寺に籠もっていた。

 彼は、上宮王家が滅びたことを嘆いていた。

 そして、自分の甘さに嘆いていた。

 あれほど慎重に事を運んだのに、最後の最後で躓いた。

 詰めが甘かったのだ。

 しかし、彼はこうも思っていた ―― これは不幸中の幸いかもしれない。

 遅かれ、早かれ、後継者問題は再燃するだろう。

 その時は、上宮王家の滅亡だけでは済まされぬかもしれなかった。

 最終的には、国中を巻き込んだ大乱となった可能性もある。

 そう考えると、上宮王家の犠牲だけで済んだのだから、良かったのかもしれない。

 彼は、そう信じるしかなかった………………

 そんな彼の期待を打ち破る吉報が齎されたのは、斑鳩宮襲撃から六日後のことであった。

 それは、山背大兄は生きており、斑鳩寺に入って、武装を整えたというものであった。

「やりましたな、兄上! 山背大兄はご無事です。斑鳩は、大伴軍が取り囲んでいるとのことですが、高向殿をやって、武装を解かせましょう」

 蘇我敏傍は、高向国押臣たかむくのにくおしのおみに遣いをやり、大伴軍の武装解除をするよう命令を出したが、彼の答えは、

「私は大后をお守りしておりますので、動けませぬ」

 とのことだった。

 そして、斑鳩から第二報が齎された。

 小競り合いで、弓削王が亡くなったというのだ。

「ええ、ならば私が!」

 と、今度は敏傍自らが赴こうとしたが、これを止めたのは入鹿であった。

「なぜです、兄上?」

「しばらく待ちなさいと言っているのです」

 入鹿はそう言うと、またひとり寺に籠もってしまった。

 入鹿は考えていた。

 不埒なことを………………あのまま死んでいてくれた方が、事が収まったのにと………………

 彼は、丸一日考えた。

 格子窓から夕日が飛び込んだ。

 夜が静かに更けていった。

 月の光が入鹿の顔を青白く照らした。

 そして、夜が静かに明けていった。

 彼は決心した。

 ―― 鬼になることを………………

 朝日が、彼の顔をなめていく。

 ―― 国のために、私は鬼になろう!

    それで、この国が纏まるのならば、後世大悪人と呼ばれても、私はかまわない!

 彼はゆっくり目を瞑り、呟くのだった。

「これしかない。これしか道はない」

 と………………
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