法隆寺燃ゆ

hiro75

文字の大きさ
上 下
60 / 378
第一章「宿命の子どもたち」 後編

第17話

しおりを挟む
「大鳥殿、林殿は、大后では蘇我家の勢力が削がれるのを恐れていらっしゃるのではないですかな?」

 どこからともなく声がした。

「なるほど、そんなことを恐れておいでか? それは、さもありなん」

「そんな矮小な考えはございません」

 嫌味なことを言うやつだな ―― 入鹿は、声のした方に目をやった。

 そこには、小柄な男が控えている。

 どことなく、中臣鎌子に似た顔である。

「私に、妙案がございますが」

「ほう、中臣殿、その案とは?」

 小柄な男は促され、喋り出した ―― なるほど、あれが鎌子殿の異母兄、枚夫かと、入鹿は鋭い目をやった。

「山背様を大王とし、大后には山背様の大后になって頂きます。そして、大兄には田村様のご子息、古人様になって頂くのです」

「なるほど、それは名案。これで、山背派も大后派も納得がいくだろう。蘇我家の支配も、山背様、古人様と続けることができますぞ。どうですかな?」

 入鹿は、枚夫の顔を見た。

 その顔は冷静そのものである。

 入鹿は思った ―― 恐ろしい奴だと………………

 結局、この日の重臣会議は、枚夫の案を再度検討するという形でお開きとなった。

 入鹿は、その足で、重臣会議の結果を宝大后に報告するために参上した。

 しかし、枚夫の案は、言葉の端にも出さなかった。

「会議は揉めているようですね、林臣」

 宝大后の言葉はきつかった。

「申し訳ございません」

「林臣、大臣が決断できないようなら、私が大王代行として裁可を下しますよ」

「それには、及びません。急ぎ、取り纏めますので」

 宝大后は痺れを切らしていた。

 そして屋敷に帰っては、蘇我敏傍が慌てた様子で入鹿に詰め寄った。

「兄上、山背様と大后の婚姻は本当なのですか?」

「どこからその話を?」

「分かりませんが、舂米様はご立腹のようで。詳細を説明せよと、いま、三輪殿が外に待っておりますぞ」

 重臣会議の話が漏れている。

 いや、故意に漏らしているのか?

 もはや猶予はない。

 山背大兄も、宝大后も、そして重臣たちも納得のいく方法………………入鹿は、最終決断を下すことにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

和ませ屋仇討ち始末

志波 連
歴史・時代
山名藩家老家次男の三沢新之助が学問所から戻ると、屋敷が異様な雰囲気に包まれていた。 門の近くにいた新之助をいち早く見つけ出した安藤久秀に手を引かれ、納戸の裏を通り台所から屋内へ入っる。 久秀に手を引かれ庭の見える納戸に入った新之助の目に飛び込んだのは、今まさに切腹しようとしている父長政の姿だった。 父が正座している筵の横には変わり果てた長兄の姿がある。 「目に焼き付けてください」 久秀の声に頷いた新之助だったが、介錯の刀が振り下ろされると同時に気を失ってしまった。 新之助が意識を取り戻したのは、城下から二番目の宿場町にある旅籠だった。 「江戸に向かいます」 同行するのは三沢家剣術指南役だった安藤久秀と、新之助付き侍女咲良のみ。 父と兄の死の真相を探り、その無念を晴らす旅が始まった。 他サイトでも掲載しています 表紙は写真ACより引用しています R15は保険です

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

処理中です...