59 / 378
第一章「宿命の子どもたち」 後編
第16話
しおりを挟む
二回目の重臣会議には蘇我入鹿が出席したが、彼はこの会議に何か作為的なものを感じていた。
会議を取り仕切ったのは、
「林殿は初めてじゃから、進行はワシがやろう」
と、安倍内麻呂が進み出たのだが、彼の進行は、入鹿が首を傾げるような点が多くあった。
麻呂は、大后派の意見は大きく取り上げるが、山背大兄派の意見となると無視するか、取り上げてもあれやこれやと文句をつけて封じ込めるような態度を取った。
挙句の果には、山背大兄派の意見も聞かず、大后擁立を重臣会議の総意とする、と纏めてしまおうとするのである。
「我らの総意は、大后で纏まり申した。後は、大臣がどう決断を下すかだけじゃが?」
と、麻呂は意味深な目を入鹿にやった。
「そうですね……」
入鹿は、曖昧に答えるしかなかった。
しかし、これで分かったことがある。
大后派の中心になっているのが、麻呂と大伴長徳、巨勢徳太臣の三人であるということだ。
山背大兄を推して、この三氏族と対立するようなことになったら危ないなと入鹿は思った。
大伴氏は、物部氏と並ぶ朝廷の武力集団を纏める家柄である。
安倍氏も、蝦夷征伐に多くの将軍を出す家柄。
巨勢氏も、半島遠征時に、多くの将軍を出してきた家柄であった。
これらを敵に回せば、多大の犠牲を覚悟しなければならない。
「確かに……、大后は田村大王が亡くなられて以来、大王代行として実務を重ねられた経験もあり、その能力は非常に高いと感じております。しかし、それを言えば、山背様も同じはず。大兄として、大王の実務をつぶさに見てこられました」
「林殿は、大后では納得がいかんと見える」
「大鳥殿は、山背様では納得がいかにように見えますが?」
会議の場に緊張が走った。
誰もが、麻呂と入鹿の対立を、固唾を呑んで見守っている。
入鹿は、必死に考えていた。
宝大后・山背大兄両派を上手く纏める案はないかと。
彼の背中に、一滴の汗が流れた。
会議を取り仕切ったのは、
「林殿は初めてじゃから、進行はワシがやろう」
と、安倍内麻呂が進み出たのだが、彼の進行は、入鹿が首を傾げるような点が多くあった。
麻呂は、大后派の意見は大きく取り上げるが、山背大兄派の意見となると無視するか、取り上げてもあれやこれやと文句をつけて封じ込めるような態度を取った。
挙句の果には、山背大兄派の意見も聞かず、大后擁立を重臣会議の総意とする、と纏めてしまおうとするのである。
「我らの総意は、大后で纏まり申した。後は、大臣がどう決断を下すかだけじゃが?」
と、麻呂は意味深な目を入鹿にやった。
「そうですね……」
入鹿は、曖昧に答えるしかなかった。
しかし、これで分かったことがある。
大后派の中心になっているのが、麻呂と大伴長徳、巨勢徳太臣の三人であるということだ。
山背大兄を推して、この三氏族と対立するようなことになったら危ないなと入鹿は思った。
大伴氏は、物部氏と並ぶ朝廷の武力集団を纏める家柄である。
安倍氏も、蝦夷征伐に多くの将軍を出す家柄。
巨勢氏も、半島遠征時に、多くの将軍を出してきた家柄であった。
これらを敵に回せば、多大の犠牲を覚悟しなければならない。
「確かに……、大后は田村大王が亡くなられて以来、大王代行として実務を重ねられた経験もあり、その能力は非常に高いと感じております。しかし、それを言えば、山背様も同じはず。大兄として、大王の実務をつぶさに見てこられました」
「林殿は、大后では納得がいかんと見える」
「大鳥殿は、山背様では納得がいかにように見えますが?」
会議の場に緊張が走った。
誰もが、麻呂と入鹿の対立を、固唾を呑んで見守っている。
入鹿は、必死に考えていた。
宝大后・山背大兄両派を上手く纏める案はないかと。
彼の背中に、一滴の汗が流れた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
不屈の葵
ヌマサン
歴史・時代
戦国乱世、不屈の魂が未来を掴む!
これは三河の弱小国主から天下人へ、不屈の精神で戦国を駆け抜けた男の壮大な物語。
幾多の戦乱を生き抜き、不屈の精神で三河の弱小国衆から天下統一を成し遂げた男、徳川家康。
本作は家康の幼少期から晩年までを壮大なスケールで描き、戦国時代の激動と一人の男の成長物語を鮮やかに描く。
家康の苦悩、決断、そして成功と失敗。様々な人間ドラマを通して、人生とは何かを問いかける。
今川義元、織田信長、羽柴秀吉、武田信玄――家康の波乱万丈な人生を彩る個性豊かな名将たちも続々と登場。
家康との関わりを通して、彼らの生き様も鮮やかに描かれる。
笑いあり、涙ありの壮大なスケールで描く、単なる英雄譚ではなく、一人の人間として苦悩し、成長していく家康の姿を描いた壮大な歴史小説。
戦国時代の風雲児たちの活躍、人間ドラマ、そして家康の不屈の精神が、読者を戦国時代に誘う。
愛、友情、そして裏切り…戦国時代に渦巻く人間ドラマにも要注目!
歴史ファン必読の感動と興奮が止まらない歴史小説『不屈の葵』
ぜひ、手に取って、戦国時代の熱き息吹を感じてください!
アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)
三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。
佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。
幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。
ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。
又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。
海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。
一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。
事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。
果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。
シロの鼻が真実を追い詰める!
別サイトで発表した作品のR15版です。
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる