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第一章「宿命の子どもたち」 後編
第16話
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二回目の重臣会議には蘇我入鹿が出席したが、彼はこの会議に何か作為的なものを感じていた。
会議を取り仕切ったのは、
「林殿は初めてじゃから、進行はワシがやろう」
と、安倍内麻呂が進み出たのだが、彼の進行は、入鹿が首を傾げるような点が多くあった。
麻呂は、大后派の意見は大きく取り上げるが、山背大兄派の意見となると無視するか、取り上げてもあれやこれやと文句をつけて封じ込めるような態度を取った。
挙句の果には、山背大兄派の意見も聞かず、大后擁立を重臣会議の総意とする、と纏めてしまおうとするのである。
「我らの総意は、大后で纏まり申した。後は、大臣がどう決断を下すかだけじゃが?」
と、麻呂は意味深な目を入鹿にやった。
「そうですね……」
入鹿は、曖昧に答えるしかなかった。
しかし、これで分かったことがある。
大后派の中心になっているのが、麻呂と大伴長徳、巨勢徳太臣の三人であるということだ。
山背大兄を推して、この三氏族と対立するようなことになったら危ないなと入鹿は思った。
大伴氏は、物部氏と並ぶ朝廷の武力集団を纏める家柄である。
安倍氏も、蝦夷征伐に多くの将軍を出す家柄。
巨勢氏も、半島遠征時に、多くの将軍を出してきた家柄であった。
これらを敵に回せば、多大の犠牲を覚悟しなければならない。
「確かに……、大后は田村大王が亡くなられて以来、大王代行として実務を重ねられた経験もあり、その能力は非常に高いと感じております。しかし、それを言えば、山背様も同じはず。大兄として、大王の実務をつぶさに見てこられました」
「林殿は、大后では納得がいかんと見える」
「大鳥殿は、山背様では納得がいかにように見えますが?」
会議の場に緊張が走った。
誰もが、麻呂と入鹿の対立を、固唾を呑んで見守っている。
入鹿は、必死に考えていた。
宝大后・山背大兄両派を上手く纏める案はないかと。
彼の背中に、一滴の汗が流れた。
会議を取り仕切ったのは、
「林殿は初めてじゃから、進行はワシがやろう」
と、安倍内麻呂が進み出たのだが、彼の進行は、入鹿が首を傾げるような点が多くあった。
麻呂は、大后派の意見は大きく取り上げるが、山背大兄派の意見となると無視するか、取り上げてもあれやこれやと文句をつけて封じ込めるような態度を取った。
挙句の果には、山背大兄派の意見も聞かず、大后擁立を重臣会議の総意とする、と纏めてしまおうとするのである。
「我らの総意は、大后で纏まり申した。後は、大臣がどう決断を下すかだけじゃが?」
と、麻呂は意味深な目を入鹿にやった。
「そうですね……」
入鹿は、曖昧に答えるしかなかった。
しかし、これで分かったことがある。
大后派の中心になっているのが、麻呂と大伴長徳、巨勢徳太臣の三人であるということだ。
山背大兄を推して、この三氏族と対立するようなことになったら危ないなと入鹿は思った。
大伴氏は、物部氏と並ぶ朝廷の武力集団を纏める家柄である。
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「確かに……、大后は田村大王が亡くなられて以来、大王代行として実務を重ねられた経験もあり、その能力は非常に高いと感じております。しかし、それを言えば、山背様も同じはず。大兄として、大王の実務をつぶさに見てこられました」
「林殿は、大后では納得がいかんと見える」
「大鳥殿は、山背様では納得がいかにように見えますが?」
会議の場に緊張が走った。
誰もが、麻呂と入鹿の対立を、固唾を呑んで見守っている。
入鹿は、必死に考えていた。
宝大后・山背大兄両派を上手く纏める案はないかと。
彼の背中に、一滴の汗が流れた。
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