法隆寺燃ゆ

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第一章「宿命の子どもたち」 中編

第2話

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 それが表ざたになったのが、用明天皇の崩御の際である。

 この瞬間を待っていたとばかりに、物部氏は次の天皇に穴穂部皇子を推挙。

 穴穂部と物部氏を阻止するため、蘇我氏は敏達天皇の皇后である額田部皇女を奉じる。

 ここに、蘇我氏と物部氏が激闘することになる ―― 丁未ていびの乱である。

 戦闘は、最終的に物部氏が滅亡し、蘇我馬子が穴穂部皇子の弟である白瀬部皇子はつせべのみこを即位させることで決着が付けられる。

 祟峻すしゅん天皇の誕生である。

 揉めに揉めて即位した祟峻天皇であるが、彼は不運の星に生まれたのか、政権誕生の立役者である馬子に暗殺されてしまう。

 祟峻天皇が、猪を嫌いな人物に見立てて、「首を切りたい」と言ったのを、馬子が自分のことだと思い、先手を取ったというが、本当の理由は良く分からない。

 人々は、馬子の専横的な振る舞いが原因だったとか、祟峻天皇の執政能力に問題があったとか、様々な噂をしたが、本当の理由は誰にも分からなかった。

 ここまで来ると、天皇家と血縁関係を維持することで巨大化してきた蘇我氏の思惑は、大きく修正しなければならなくなる。

 蘇我家初の天皇である用明はもういない。

 穴穂部皇子も、思わぬ同族争いで失ってしまった。

 そして、盤上の最後の駒であった祟峻天皇も自ら捨ててしまった。

 持ち駒で有力なのは、用明天皇の息子厩戸皇子であるが、これはまだ若い。

 そうかと言って、他の皇子たちを即位させれば、蘇我家の目はなくなるかもしれない。

 そこで最終手段として、馬子は、姪であり敏達天皇の皇后であった額田部皇女を即位させる手に打ってでる。

 彼女は、出自にしても、身分にしても、そして天皇としての執政能力にしても問題はなかった。

 皇后は皇族から選ばれ、さらに天皇とは表裏一体の関係である。

 天皇不在時には、皇后が執政を行うというのはよくあることで、今回はその延長線上と考えればいい。

 もちろん馬子にしてみれば、次の世代である厩戸皇子の中継ぎのような思惑があったのは当然であろう。

 実際彼は、厩戸皇子を女帝の摂政としてその傍に置いている。

 一方、額田部皇女にしてみれば、蘇我一族の存続とともに、彼女と敏達天皇の子である竹田皇子たけだのみこを帝位に就ける可能性を見出したのかもしれない。

 しかし幸か不幸か、彼女は長生きであった。

 厩戸皇子は、その治世三十(六二二)年に亡くなり、馬子も治世三十四(六二六)年にこの世を去ってしまう。

 さらに竹田皇子も、彼女の臨終の際には、すでに鬼籍の人であり、これが後継者問題を再発させることになった。
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