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第一章「宿命の子どもたち」 前編
第20話
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「父さんは汚いんか? 母さんは汚いんか? 雪女は汚いんか?」
その都度、弟成は大きく首を振った。
「なんで、汚くないんや?」
「そやかて、汚くないもん」
弟成は、激しく言った。
「そうや、弟成。お前が汚くないと思えば、汚くない。そやけど、お前が汚いと思えば、それは汚いんや。分かるか?」
弟成は、涙を拭いつつ頷いた。
「弟成、お前が誰になんて言われて、なんをされたかは訊かん。そやけどな、今後、お前が生きていくなかには、そんなことが山ほどあるんやで。人には言えないような辛いことが、山とあるんやで。お前を奴だと言って、辛い言葉を浴びせる者もおるし、辛い仕打ちをする者もおる。そやけどな、卑屈になったらいかん」
満点の星空の下、奴婢長屋を抜け出した姿がもう一人あった。
黒万呂である。
彼は、長屋の傍らに立って、三成の言葉に耳を傾けていた。
「ええか、弟成。ここ、ここを強く持て」
三成は、己の胸を突き出し、叩いて見せた。
「ここが強ければ、誰になんと言われようとも、なんをされようとも、正しい道を歩いて行ける」
「正しい道?」
「そうや、正しい道や」
三成は、彼の頭を撫でながら言った。
「そやから、もう泣くな。泣いたら道が見えんことなって、足踏み外すぞ」
黒万呂の足下にも雫が零れ落ちて、飛沫を作り上げた。
天空の星のように………………
黒万呂は、これ以上涙を溢すまいと星空を見上げた。
その時、彼の目の端で、暗闇に浮かび上がる赤い光が見えた。
彼は、その光の方へ目をやった。
次の瞬間、彼は有りっ丈の声で叫んだ。
「火事や!」
その都度、弟成は大きく首を振った。
「なんで、汚くないんや?」
「そやかて、汚くないもん」
弟成は、激しく言った。
「そうや、弟成。お前が汚くないと思えば、汚くない。そやけど、お前が汚いと思えば、それは汚いんや。分かるか?」
弟成は、涙を拭いつつ頷いた。
「弟成、お前が誰になんて言われて、なんをされたかは訊かん。そやけどな、今後、お前が生きていくなかには、そんなことが山ほどあるんやで。人には言えないような辛いことが、山とあるんやで。お前を奴だと言って、辛い言葉を浴びせる者もおるし、辛い仕打ちをする者もおる。そやけどな、卑屈になったらいかん」
満点の星空の下、奴婢長屋を抜け出した姿がもう一人あった。
黒万呂である。
彼は、長屋の傍らに立って、三成の言葉に耳を傾けていた。
「ええか、弟成。ここ、ここを強く持て」
三成は、己の胸を突き出し、叩いて見せた。
「ここが強ければ、誰になんと言われようとも、なんをされようとも、正しい道を歩いて行ける」
「正しい道?」
「そうや、正しい道や」
三成は、彼の頭を撫でながら言った。
「そやから、もう泣くな。泣いたら道が見えんことなって、足踏み外すぞ」
黒万呂の足下にも雫が零れ落ちて、飛沫を作り上げた。
天空の星のように………………
黒万呂は、これ以上涙を溢すまいと星空を見上げた。
その時、彼の目の端で、暗闇に浮かび上がる赤い光が見えた。
彼は、その光の方へ目をやった。
次の瞬間、彼は有りっ丈の声で叫んだ。
「火事や!」
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