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第一章「宿命の子どもたち」 前編
第9話
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北風が容赦なく椿井の里を吹き付け、誰もが悴む手に白い息を掛け始めた頃になると、弟成の身の丈も一段と高くなり、黒万呂たちと遊ぶだけでなく、枝木拾いにも参加するようになった。
同じくして、雪女の体にもある変化が起きていた。
女性であれば誰もが体験することだが、そんな知識もなかった雪女には一大事であった。
初めてそれになった時、雪女は体中の血が全て出てしまったのではないかというぐらいの恐怖を感じた。
雪女は、そのことを誰にも言わなかったのだったが、もしや何かの病ではと思い、絹女にそっと相談した。
枝木拾いが終わり、お決まりの休みになると、男の子たちは枝木を剣に見立てて振り回した。
雪女は、絹女を誰にも見られないような静かな場所に呼び出すと、自分に起こった恐怖の体験を話した。
初めは何の相談かと強張っていた絹女だったが、そのうち、「そんなん、なんも問題ないわ」と笑い出した。
深刻な話に絹女が笑ったので、雪女は馬鹿にされたと思い、不愉快になった。
が、女の理を聞いて、ほっと安堵するとともに、なぜか恥ずかしくなった。
「そやから、最近元気がなかったん?」
「まあ、そうやけど……、そんなに笑わんでもええやん。うち、ほんまに心配したんやから」
「ごめん、ごめん。そやかて、めっちゃ怖い顔して話すから、なんのことかと思って。それよりも、黒女小母さんに話したん?」
「まだやけど……」
「あかんて、話さんと。後、婢婆にも話して、色々としてもらわんとあかんのやから」
「そうなん?」
「そうや。そんなんより、起きてて大丈夫なん?」
「え、別に。頭は重い気がするけど」
「そうなんや。うちなんて初めての時、起きられへんかったのに」
「へえ……、てっ、絹女、いつからなん?」
「いつって……、もう一年前から。ほら、去年の今頃、うち、三日も床から出んかったやろ」
絹女が少し大人びて見えた。
木漏れ日が、二人を照らす。
遠くで男の子たちの歓声が上がる。
「でも、男の子って、ほんまにええよね。こんなことなくて」
「ほんまやね……」
と、二人は膝の上に憂鬱そうに顎を乗せるのだった。
その夜、奴婢長屋に帰った雪女は、父の廣成が酒宴の席にいるのを幸いに、母の黒女にあのことを告げた。
黒女は、初めは驚いたようだったが、そのことを喜んでくれた。
同じくして、雪女の体にもある変化が起きていた。
女性であれば誰もが体験することだが、そんな知識もなかった雪女には一大事であった。
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雪女は、そのことを誰にも言わなかったのだったが、もしや何かの病ではと思い、絹女にそっと相談した。
枝木拾いが終わり、お決まりの休みになると、男の子たちは枝木を剣に見立てて振り回した。
雪女は、絹女を誰にも見られないような静かな場所に呼び出すと、自分に起こった恐怖の体験を話した。
初めは何の相談かと強張っていた絹女だったが、そのうち、「そんなん、なんも問題ないわ」と笑い出した。
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が、女の理を聞いて、ほっと安堵するとともに、なぜか恥ずかしくなった。
「そやから、最近元気がなかったん?」
「まあ、そうやけど……、そんなに笑わんでもええやん。うち、ほんまに心配したんやから」
「ごめん、ごめん。そやかて、めっちゃ怖い顔して話すから、なんのことかと思って。それよりも、黒女小母さんに話したん?」
「まだやけど……」
「あかんて、話さんと。後、婢婆にも話して、色々としてもらわんとあかんのやから」
「そうなん?」
「そうや。そんなんより、起きてて大丈夫なん?」
「え、別に。頭は重い気がするけど」
「そうなんや。うちなんて初めての時、起きられへんかったのに」
「へえ……、てっ、絹女、いつからなん?」
「いつって……、もう一年前から。ほら、去年の今頃、うち、三日も床から出んかったやろ」
絹女が少し大人びて見えた。
木漏れ日が、二人を照らす。
遠くで男の子たちの歓声が上がる。
「でも、男の子って、ほんまにええよね。こんなことなくて」
「ほんまやね……」
と、二人は膝の上に憂鬱そうに顎を乗せるのだった。
その夜、奴婢長屋に帰った雪女は、父の廣成が酒宴の席にいるのを幸いに、母の黒女にあのことを告げた。
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