秀吉の猫

hiro75

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第3話

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 伏見城のひと部屋を猫部屋にしていた。

 秀吉自ら猫の世話をしていた。

 秀吉がいないときは、近習が面倒を見た。

 2日前、一人の近習が餌をやるために猫部屋に入った。

 餌は、鯛の塩焼きをほぐしたもの。

 腹を空かせた猫が、近習の足元にどっと押し寄せた。

 近習は異変に気がついた。

 いつもなら我先にと駆け寄ってくる〝トラ〟がいない。

 他の猫も、太閤殿下の寵愛を受ける〝トラ〟に遠慮して、なかなか餌を食べようとしない。

 もの欲しそうな顔で、餌をじっと見ている。

 近習は猫の数を数えた。

 やはり、一匹足りない。

 目を擦り、足の指を使ってまでして数えたが、やはりいない。

 近習はこれは一大事と、猫たちの頭上に餌をばら撒き、慌てて部屋をでた。

 それから、上へ下への大騒ぎである。

 伏見城をくまなく捜したが、見つからない。

 周辺も捜してみたが、発見できない。

 太閤殿下に知れれば打ち首だと、猫捜しを依頼しにきた近習は声を詰まらせていた。

 大の大人が、それも武士が、いい年をして今にも泣き出しそうな、あまりにも情けない顔をするので、

「分かった、分かった、何とか捜してみせる」

 と、引き受けてしまった。
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