桜はまだか?

hiro75

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第三章「焼き味噌団子」

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 おかつが、お七にした話はあながち嘘ではない。

 いや、ほとんど実話である。

 おかつは小さいころに二親を亡くし、そのあとはどん底の生活をしていた。

『生きていくにはおまんまを食べなくちゃいけねえ。お飯が欲しけりゃ、銭が必要だよ』

 ということで、その銭を得るために始めたのが掏児だった。

 生まれつき手先が器用だったせいか、めきめきと腕を上げて、その世界ではちょっと名の知れた存在になった。

 だが、掏児なんざ、名が知れたらやってはいけない。

 役人から目を付けられて、捕まったのが小次郎の縄だった。

 そのときは小次郎も、おかつが初犯ということもあって見逃してやった。

 そのあと、二、三度と捕まった。

 そうなると、「仏の顔も何とやら」である。

 とうとう小伝馬町送りとなった。

 だが、小伝馬町に行く前日に、お解き放ちとなった。

 おかつは首を捻った。

 死罪、遠島は免れぬと覚悟していたのが、行き成り無罪放免である。

 それも、命を助けてもらっただけでなく、働く店まで紹介してもらったのだから………………

 それが、いまの一膳飯屋である。

(今日日の御番所も、なかなか粋なことをしてくれるじゃないかい)

 おかつは、勝手に解釈していた。

 後々になって聞いてみると、裏で小次郎がいろいろと手を回していたことが分かった。

(なんで秋山のやつが?)

 小次郎は、おかつを捕まえた張本人である。

 もしかして手篭めにするつもりじゃ………………と思い、なんでそこまで自分に優しくするのかと、おかつは直接訊いたことがある。

 すると小次郎は口の端を緩めて、

『おう、小伝馬町送りには、勿体ねえほどのいい女だからな』

 と言った。

 小次郎の笑みを見て、背筋に悪寒が走った。

 しかし、小次郎がおかつを求めてくることはなかった。

 たまにお尻を撫でたり、下の話をしたりするが、それ以上は興味がないようだ。

 実際のところは、手先として仕える女が欲しかっただけのようである。

(それなら、そう言えばいいのに。ほんと、秋山の旦那も素直じゃないね)

 おかつは、心の中でくすりと笑っている。

 これまで秋山の手先として何度も働いている。

 が、今回のように仮牢に入れなど初めてだった。

『分かりましたよ。秋山様とは腐れ縁ですからね、やりますよ。で、何を聞き出せばいいんですか?』

『おうよ、そうこなくっちゃ』

 と、尻をぽんと叩かれた具合である。
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