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第三章「焼き味噌団子」
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これより半時前の話である。
小次郎が店に飛び込んで来て、
『おかつ、ちょっと良いか』
と、外に連れ出された。
『仕事ですか?』
後れ毛を川端の柔らかい風に乱されながら、おかつは訊いた。
『おう、そうよ。すまねえが、大番屋の仮牢に入ってくれねぇか?』
小次郎の話は、唐突なものだった。
『はあ?』
『おめえ、何度も入ってるだろ?』
『そりゃ、むかしの話ですよ。いまは真っ当な仕事をしてるんだから。でも、なんですか、いきなり大番屋の仮牢に入れだなんて?』
『ん? おう、それなんだが、おめえ、お七の一件は知ってるだろ』
『まあ、噂程度は。相当強情なお嬢さんとか?』
『おう、よく知ってるな。そのお七の件でな……』
小次郎が言うには、お七に男連中が雁首揃えてやいのやいのと言っても萎縮しちまって話さないだろう。
おまけに、男が絡んでくるとなると余計に話しづらくなる。
じゃあ、女ならどうかという話が出たが、女が取り調べるなんざ聞いたことがない。
それに、こんなことが上に知れたら、御奉行に迷惑がかかる。
そんじゃあ、仮牢に女を忍び込ませようじゃないか………………となったらしい。
『同じ囚人なら、お七も何か話すんじゃないかと思ってな。だからといって、小伝馬町の生き地獄に放り込んだら、いまのお七じゃ、とても持たんだろうし。じゃあってことで、おめえの顔がぴんと浮んでな』
『はあ……』
おかつは、困惑気味だ。
『それ、秋山様のお考えですか?』
『いや、神谷様だ』
おかつは、だろうなと思った。
(秋山の旦那なら、そんな手の込んだことはしないでしょう)
小次郎も、そんな手段は自分に合わないと思っているのか、聊か渋い顔で首筋を掻いている。
『不如帰を鳴かすんだと』
『不如帰? なんですかそれ?』
『知らん。とにかく、できるな?』
『いえ、まだやるとは……』
『おかつ、おめえがお天道様の下を堂々と歩けるのは、誰のお陰なんだ』
小次郎は眉を吊り上げる。
(またその話か)
おかつは溜息を吐いた。
小次郎が店に飛び込んで来て、
『おかつ、ちょっと良いか』
と、外に連れ出された。
『仕事ですか?』
後れ毛を川端の柔らかい風に乱されながら、おかつは訊いた。
『おう、そうよ。すまねえが、大番屋の仮牢に入ってくれねぇか?』
小次郎の話は、唐突なものだった。
『はあ?』
『おめえ、何度も入ってるだろ?』
『そりゃ、むかしの話ですよ。いまは真っ当な仕事をしてるんだから。でも、なんですか、いきなり大番屋の仮牢に入れだなんて?』
『ん? おう、それなんだが、おめえ、お七の一件は知ってるだろ』
『まあ、噂程度は。相当強情なお嬢さんとか?』
『おう、よく知ってるな。そのお七の件でな……』
小次郎が言うには、お七に男連中が雁首揃えてやいのやいのと言っても萎縮しちまって話さないだろう。
おまけに、男が絡んでくるとなると余計に話しづらくなる。
じゃあ、女ならどうかという話が出たが、女が取り調べるなんざ聞いたことがない。
それに、こんなことが上に知れたら、御奉行に迷惑がかかる。
そんじゃあ、仮牢に女を忍び込ませようじゃないか………………となったらしい。
『同じ囚人なら、お七も何か話すんじゃないかと思ってな。だからといって、小伝馬町の生き地獄に放り込んだら、いまのお七じゃ、とても持たんだろうし。じゃあってことで、おめえの顔がぴんと浮んでな』
『はあ……』
おかつは、困惑気味だ。
『それ、秋山様のお考えですか?』
『いや、神谷様だ』
おかつは、だろうなと思った。
(秋山の旦那なら、そんな手の込んだことはしないでしょう)
小次郎も、そんな手段は自分に合わないと思っているのか、聊か渋い顔で首筋を掻いている。
『不如帰を鳴かすんだと』
『不如帰? なんですかそれ?』
『知らん。とにかく、できるな?』
『いえ、まだやるとは……』
『おかつ、おめえがお天道様の下を堂々と歩けるのは、誰のお陰なんだ』
小次郎は眉を吊り上げる。
(またその話か)
おかつは溜息を吐いた。
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