桜はまだか?

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第三章「焼き味噌団子」

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 大番屋で、お七の取調べに手を焼いているところに、秋山小次郎が飛び込んで来た。

『どうした?』

『はあ、ちょっと』

 表に出ると、柔らかな春の日差しが二人の顔に降り注いだ。

『お七の件ですが、もしかすると男絡みではないかと……』

 小次郎の言葉に、源太郎は眉を顰める。

『男絡み?』

『はあ』

『やはりか……、で、そういった男がいるのか?』

『まだ確かなことは言えませんが……』

 と前置きをして、小次郎は正仙院の茶屋での話をした。

『まことか?』

『確かに』

『それで、下女のおゆきはなんと?』

『いま貞吉をやっております。あまり責めるのも、どうかと思いまして』

『ほう、珍しいこともあるもんだ。鬼の秋山が、娘に手を焼くとはな』

 源太郎が笑うと、小次郎は顔を顰めたまま頭を掻いた。

『いや、どうも、このごろの娘は何を考えてるのか、ちっとも分かりません。強く出れば、すぐに拗ねる。煽てりゃ、つけ上がる。まだ男のほうが素直です。全く調子を狂われっぱなしで』

 源太郎は、

(それは、娘のお竹のことか?)

 と口を滑らせそうになってしまった。

 かくいう源太郎も、お七に調子を狂わされている。

 お七は、相も変わらずだんまりだ。

『しかし、お七と生田という侍に何らかの関係があったとしても、それが火付けと繋がらんなぁ』

『はあ、いまのところは……、しかし、どうも匂いますので……』

『その根拠は?』

『定町廻りとしての、勘みたいなものでございます』

『勘か、秋山の勘はよく当るからな』

 小次郎の勘は馬鹿にできない。

 これまでも、解決不可能といわれた難事件を、幾度となく落着に導いている。

 特に、取っ掛かりがない事件などは、勘がものをいうことが多い。

 だが、小次郎は手を左右に振った。

『いえ、いえ、あまり期待しないでください。今回は、その勘も狂っているようですから』

『が、このまま手を拱いているわけにもいくまい。ひとつ、やってみるか』

『はあ?』

『いや、お七に、その生田の名を出してみるか』
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