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夢の中で
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しおりを挟む「……しまった。入る夢を間違えちまった」
突然そう言われ、俺がいま夢を見ているということを自覚した。
夢を見ている張本人──リト。冒険者であり強靱な体格に軽い無精髭があり、髪はざく切り状態でいかにもワイルドな風格である。娼館のオンナからの話では俺の顔は男前の方らしく、たとえ無精髭でもサマになってるのことだそうだ。
数日間ずっと狙っていた高額報酬と引き換えに出来る魔物をようやく捕まえ、ギルドで報酬を受けた後はそこらへんのバーで一杯ひっかけて、宿にありつけてそのままベッドで寝た……はずだ。
周りを見てみると、住むには狭いぐらいの広さにシングルベッドと洗面台があり、宿っぽい雰囲気はあった。ただ実際の宿かどうかは自信はない。
「いま俺は夢……見ているってことか?」
俺の夢に入ってきたであろう人物にそう訊ねると、軽く頷かれた。
その人は『美青年』という言葉がとても似合っている。造形美とはこの事かというほど美しい顔をしていて、上半身は黒ベストを着ていたが前は留めておらず胸板がむき出し、程よい筋肉がついている。下半身は身体の線が分かるほどピッタリなレザーパンツを履いていた。そして暗めのパープルで艶がありサラサラとした髪。
こんな綺麗な人間を見たことあっただろうか──と見惚れていると、頭の両横から二つの角がサラサラの髪をかき分けて出てきて、臀部に魔物特有の尻尾がニュルンと生えてきた。
なるほど、魔物ならうなずける。
「夢っていうことは、インキュバスか?」
「おや、よく知ってるね」
髪色と同じ瞳の色が見えなくなるほど目を細められる。
「そう。私はインキュバス。本当だったらオンナの夢に入る予定だったんだけど、うっかり間違えてあなたの夢に入ってしまったんだ」
「そうか、ならすぐオンナの夢とやらに行ったらどうだ」
インキュバスは眉を顰めて首を振る。その際にサラサラと流れる髪が美しかった。
「残念ながら、一旦入ったらセックスしないといけない決まりなんだ。んー、仕方ない。インキュバスの気持ちだったんだが、サキュバスに変えるか」
「……オンナに変身できるのか」
「オンナのほうがいいんだろう?」
そう言って、オトコの体型だったのがだんだんとオンナのほうに変わっていく。
キュッと引き締まっていた尻が丸みを帯び、胸も膨らみはじめる。触るとフワフワしておそらく肌触りがいいだろう。だが、何故か俺はだんだんと気持ちが冷めていった。
目の前には確かに俺好みのオンナがいたが、どうにも気が乗らなかった。
「……待ってくれ。さっきのほうがいい」
「あれ? 今までオンナとヤってきたよね?」
……どうやらインキュバスとやらは夢に入った人のセックス事情を把握できるようだ。
確かに俺は今までオンナを選んでセックスしてきたし、なんなら現在進行形だ。
だが、今は最初のオトコの姿のほうに惹かれていた。そちらで堪能してみたいと思ったのだ。
髭やムダ毛なんて縁がないといったツルツルな肌に、オンナには無いであろうしなやかな弾力のある身体を隅々と撫でてみたらきっと昂ぶってしょうがないだろう。そんなことを考えていることに自分でも驚いている。
「確かに今までオンナとヤってきたが、今は先程のオトコの姿でヤってみたい」
きっぱりと答える俺に本気と捉えたのか、サキュバスからインキュバスに戻り、角と尻尾を隠して人間姿になっていく。
だんだんと引き締まっていく身体に、下半身が昂ぶっていくのを感じる。
「……うん。こっちのほうがいい」
「あんた、変なやつだな。オンナとヤってきた人間達はサキュバス姿ですぐ堕ちるのに」
そう言われても、俺はインキュバスのほうで堕ちたんだから仕方ない。
そっと首まであるサラサラな髪を手で梳いてみる。指の間からスルスルと流れ落ちていく感触にゾクゾクする。
光を透けてみるとパープルだったのがピンクになっていくことに気づき、もう一度見てみたくなり再び梳いていく。
「綺麗な髪だろ。自慢の髪だぜ」
フフンとドヤ顔で唇がニュッと伸びる。
「そうだな。光に当てるとピンクになるのが良い」
リトはインキュバスの髪を少しつまみ、自分の唇で感触を味わってみる。
「……触れても、いいよな?」
「あぁ。セックスしとかないと、あんた目覚めることはないからな」
「そうなのか。じゃあ遠慮なく」
俺の側にあったベッドへ躊躇なくインキュバスを押し倒した。
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