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二章 亜人跡
2−3 しぶとい野良の理由とは
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視界にとらえたのは、先刻と同じ姿の魔獣の群れ
ただし、その数は軽く十倍はいようか……。
唸り声をあげて、コチラを見据える黄色い双眸が、それはそれはたくさん。
……できれば、対峙したくないな……。
そんな思考を巡らしていると。
「あっさり囲まれたな」
今度は視線をやらなくても分かる。
がっくりと肩と視線を落としたまま、状況を認識した。
私達が歩いてきた回廊にも、ほぼ同じ数の魔獣の気配。
不思議と、すぐに襲い掛かってくることもなく、ゆっくりとした足取りで部屋に入ってくると私達の周りを取り囲んだ。
「困ったなぁ……これは」
「暢気に言っている場合か。どうする」
「いや、どうするって言ったって……」
一瞬、強行突破の策も頭を過ったが、無事で済む確率は限りなくゼロ。何せ、相手は四つ足なのだ。
だからと言って、まともに全員を相手にしていたのでは、王の間へたどり着く前に、コチラが力尽きてしまう。
まだまだ憶測の域を出ないが、この魔獣達は単なる野良魔獣の群れではない。何者かによって、強化されているのだろう。
……はっきり言って、非常にメンドクサイ。
そんなことを思いながら、ちらりと赤斗の方へ視線をやれば、私の方を見もせず、注意を周囲へ配りながらの難しい表情。
今、この状況が決して楽観できるものではないということが、嫌でも分かる。
……仕方ないなぁ……。
「赤斗、今から一つ、神術使うから……」
注意の対象は変えず、視線がぶつかる。
赤斗とおそろいで野良なんて、ジョークでも笑えない。
「その術を発動させたら、私を抱えて思い切りジャンプして」
「……世流、いくら俺でも、十メートル以上跳ね上がるなんて無理だぞ」
「その為の術でしょうが!」
あぁ、もう。こんな漫才やっている場合じゃないのに。
ツッコミを入れざるを得ない自分の性分を少しだけ呪いたくなった。
「いい? いくよ」
私は目を閉じて、意識を集中し始める。
敵を目の前にして視界を自ら閉じるということは、自殺行為。けれど今、私は一人ではない。
その証拠に、目を閉じたと同時に強く身体が抱かれる感覚がした
そう、私の隣には赤斗がいる。
だから、全神経を術の発動に集中することができるのだ。
「θ!」
発動と同時に赤斗が大きく上に向かって跳ねた!
「う、わっ……!!」
術の力で増幅された彼のジャンプ力は、易々と二人分の身体を十メートル上方の壁面に設置されていた石像の元へ運んだ。
いきなり自分の跳躍力が人並外れたことに驚いて、思わず赤斗が上ずった声を上げる。緊張感に欠けるが、まぁ、そんなことはどうでもいい。
うまく石像の上に着地した時、私は次の術減を紡ぎだし始めていた。
「氷海を治めし 海神ウィネレード 鋭氷なる氷柱を我に授けよ 虚ろなる無熱の刃よ その咆哮と共に降り注げ!」
赤斗の小脇に抱えられたまま、手を三角形の形に組む。
その中に、先程まで私達がいた場所からこちらを見て低く唸る魔獣の群れをおさめ。
そして術を発動した!!!!
何かがくる。本能によりそれを察知した魔獣は身構え、数歩後退する!
しかし、遅い!!!
部屋中に降り注いだ虚無の氷柱は、魔獣に逃げる暇を与えず、次々にその熱を奪い去っていく!!!
吹雪が部屋を支配し、砕けた結晶が巻き上がり―――そして訪れた、静寂。
「……どうだ?」
「……うん」
冷気が少し落ち着き、氷煙が少しずつ晴れていく。徐々に下の様子が見えてきた。
氷の彫像と化した、魔獣。
ちょっとした美術展の様になっている。
そういえば、異国で氷の彫像の腕を競う展覧会があったな……。
「氷漬け、か。よく考えたな」
その様子を見ながら、感心したように赤斗が呟いた。
このまま放っておいても、ちょっとやそっとじゃ動く様になるとは思えないけれど、万が一ということもある。
何せあいつらは、普通の魔獣や野良ではないのだから。
「もう追いかけられるの嫌だし、とどめさすよ」
赤斗に卸してもらって、三度術言を紡ぎだす。
呟く言葉は、再び雷撃。
「ε!!!!」
ぢぢぢぢぢぢぢ……がっごっががががぁん!!!
壁を這うように下へ向かった雷撃の鞭は、目標物に接触すると、一気に弾けた!!!!
氷のオブジェと化した奴等は、文字通り木端微塵となる。
少々むごい……が、危険因子は排除せねば、今度はこちらがやられてしまう。
「ふぅ……」
「大丈夫か?」
連続して術を使役しすぎたかもしれない。
少しだけ、息があがってしまった。
「とりあえず、降りてみる?」
私は提案しながら、後ろにいる赤斗を見た。
と。
ぐらり。
……………………はい?
「世流!!!!!!!」
突如、何の前触れもなく体がバランスを崩して、私は空中に投げ出された!!
ええええええええええええええええええ!!!!??
伸ばされた赤斗の手はしかし私を捉えることはできない!
「うっきゃああああああ!!!!!???」
などと、馬鹿げた悲鳴がつい出てしまう!
慌てながらも、早口に術言を紡ぐ!!
「#θ_シータ__#!!」
地面に叩きつけられる直前に風の神術を発動させ、ふわりとクッションを作り出した。
倒れ込むような形ではあるものの、衝撃は全くなく、無事に降りることに成功する。
ただし、その数は軽く十倍はいようか……。
唸り声をあげて、コチラを見据える黄色い双眸が、それはそれはたくさん。
……できれば、対峙したくないな……。
そんな思考を巡らしていると。
「あっさり囲まれたな」
今度は視線をやらなくても分かる。
がっくりと肩と視線を落としたまま、状況を認識した。
私達が歩いてきた回廊にも、ほぼ同じ数の魔獣の気配。
不思議と、すぐに襲い掛かってくることもなく、ゆっくりとした足取りで部屋に入ってくると私達の周りを取り囲んだ。
「困ったなぁ……これは」
「暢気に言っている場合か。どうする」
「いや、どうするって言ったって……」
一瞬、強行突破の策も頭を過ったが、無事で済む確率は限りなくゼロ。何せ、相手は四つ足なのだ。
だからと言って、まともに全員を相手にしていたのでは、王の間へたどり着く前に、コチラが力尽きてしまう。
まだまだ憶測の域を出ないが、この魔獣達は単なる野良魔獣の群れではない。何者かによって、強化されているのだろう。
……はっきり言って、非常にメンドクサイ。
そんなことを思いながら、ちらりと赤斗の方へ視線をやれば、私の方を見もせず、注意を周囲へ配りながらの難しい表情。
今、この状況が決して楽観できるものではないということが、嫌でも分かる。
……仕方ないなぁ……。
「赤斗、今から一つ、神術使うから……」
注意の対象は変えず、視線がぶつかる。
赤斗とおそろいで野良なんて、ジョークでも笑えない。
「その術を発動させたら、私を抱えて思い切りジャンプして」
「……世流、いくら俺でも、十メートル以上跳ね上がるなんて無理だぞ」
「その為の術でしょうが!」
あぁ、もう。こんな漫才やっている場合じゃないのに。
ツッコミを入れざるを得ない自分の性分を少しだけ呪いたくなった。
「いい? いくよ」
私は目を閉じて、意識を集中し始める。
敵を目の前にして視界を自ら閉じるということは、自殺行為。けれど今、私は一人ではない。
その証拠に、目を閉じたと同時に強く身体が抱かれる感覚がした
そう、私の隣には赤斗がいる。
だから、全神経を術の発動に集中することができるのだ。
「θ!」
発動と同時に赤斗が大きく上に向かって跳ねた!
「う、わっ……!!」
術の力で増幅された彼のジャンプ力は、易々と二人分の身体を十メートル上方の壁面に設置されていた石像の元へ運んだ。
いきなり自分の跳躍力が人並外れたことに驚いて、思わず赤斗が上ずった声を上げる。緊張感に欠けるが、まぁ、そんなことはどうでもいい。
うまく石像の上に着地した時、私は次の術減を紡ぎだし始めていた。
「氷海を治めし 海神ウィネレード 鋭氷なる氷柱を我に授けよ 虚ろなる無熱の刃よ その咆哮と共に降り注げ!」
赤斗の小脇に抱えられたまま、手を三角形の形に組む。
その中に、先程まで私達がいた場所からこちらを見て低く唸る魔獣の群れをおさめ。
そして術を発動した!!!!
何かがくる。本能によりそれを察知した魔獣は身構え、数歩後退する!
しかし、遅い!!!
部屋中に降り注いだ虚無の氷柱は、魔獣に逃げる暇を与えず、次々にその熱を奪い去っていく!!!
吹雪が部屋を支配し、砕けた結晶が巻き上がり―――そして訪れた、静寂。
「……どうだ?」
「……うん」
冷気が少し落ち着き、氷煙が少しずつ晴れていく。徐々に下の様子が見えてきた。
氷の彫像と化した、魔獣。
ちょっとした美術展の様になっている。
そういえば、異国で氷の彫像の腕を競う展覧会があったな……。
「氷漬け、か。よく考えたな」
その様子を見ながら、感心したように赤斗が呟いた。
このまま放っておいても、ちょっとやそっとじゃ動く様になるとは思えないけれど、万が一ということもある。
何せあいつらは、普通の魔獣や野良ではないのだから。
「もう追いかけられるの嫌だし、とどめさすよ」
赤斗に卸してもらって、三度術言を紡ぎだす。
呟く言葉は、再び雷撃。
「ε!!!!」
ぢぢぢぢぢぢぢ……がっごっががががぁん!!!
壁を這うように下へ向かった雷撃の鞭は、目標物に接触すると、一気に弾けた!!!!
氷のオブジェと化した奴等は、文字通り木端微塵となる。
少々むごい……が、危険因子は排除せねば、今度はこちらがやられてしまう。
「ふぅ……」
「大丈夫か?」
連続して術を使役しすぎたかもしれない。
少しだけ、息があがってしまった。
「とりあえず、降りてみる?」
私は提案しながら、後ろにいる赤斗を見た。
と。
ぐらり。
……………………はい?
「世流!!!!!!!」
突如、何の前触れもなく体がバランスを崩して、私は空中に投げ出された!!
ええええええええええええええええええ!!!!??
伸ばされた赤斗の手はしかし私を捉えることはできない!
「うっきゃああああああ!!!!!???」
などと、馬鹿げた悲鳴がつい出てしまう!
慌てながらも、早口に術言を紡ぐ!!
「#θ_シータ__#!!」
地面に叩きつけられる直前に風の神術を発動させ、ふわりとクッションを作り出した。
倒れ込むような形ではあるものの、衝撃は全くなく、無事に降りることに成功する。
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