砂の王国-The Chain Of Fate-

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二章 亜人跡

2−2 戦闘の先に

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 そこは、天井まで吹き抜けになった造りの大部屋だった。
 上を見上げれば、抜けるような青空が広がっている。
 私達の前に現れたのは、四つ足の魔獣が三体。全身が真っ黒
 なのに対して、青い鬣が異様で、不気味な双尾が特徴の魔獣だった。

「右の二体、任せたぞ」
「人使いが荒いなぁ……」

 私の文句に一つ微笑んで見せると、一番左の魔獣へ向かって赤斗が駆けだした!
 赤斗がそいつと戦っている間、他の二匹を彼の方へ行かせてはならない。 
 早くも牙と剣で牽制し合う赤斗と魔獣。他の二匹はしかし、攻撃の思念を自分たちへ送っている私に、意識を集中さ
せていた。

「罪と罰を与えよ 破神ハデス その戒め持ちて 罪を与えよ 罰を与えよ!」

 先日、光と仙雪を押さえつけるために使役した神術を放つ!
 本来はこの様に、攻撃の意志をもって使うのが神術の正しい使い方なのだ。
 私の左手から生み出された漆黒の鞭は、真っ直ぐに二匹の魔獣へ向かい、果敢にもそれに逆らおうと牙をむいた魔獣の身体をいとも容易く絡めとった!
 ぎり、と力強く締め付ける鞭に抗う魔獣。
 身動きが取れなくなったようだ。これでじっくり攻められる。
 こういう類の魔獣は、すばしっこいと相場が決まっているのだ。
 攻撃しようと神術を使役したところで、赤斗の方に逃げられてしまっては、ごめん、ではすまない。
 まずは動きを止めて、一網打尽にする。それが魔獣退治の基本だと、赤斗に習った。
 しかし。



ばちいいいいいいいいいっっっ!!!!



「……げ」

 そんな私の思惑とは裏腹に、魔獣の一方が戒めを打ち破り、私へ猛進してきた!
 早口に術言を唱えつつ、向かってくる魔獣をやり過ごす!
 参ったか! 私は小柄な分、人よりも素早く動けるんだ! ちびでもいいことがあるんだぞ! 体力ないけど!
 ……なんだか悲しくなってきた……。
 私にやりすごされた魔獣は、器用にもブレーキをかけて体を反転させると、すぐにまた私へ向かってくる!

「おっとぉ!!!」

 今度は魔獣の身体を支点に上方へ飛び、馬跳びの要領で難を逃れる。
 着地する瞬間、再び私へ向かってこようとする魔獣へ向けて、

εイプシロン!!」

 雷の印を結び、術の発動力である神語を紡ぐ!
 弾丸と化した雷は、魔獣の体に突き刺さり、魔獣はたまらず咆哮を上げた!
 さらに、いつの間にか戒めを破り、私の背後から迫ってこようとしていたもう一匹の魔獣へ向き直る!

ζゼータ!!!!」

 今度は水の印を結び、ためらいなく放つ!
 結晶が魔獣の足を地へ凍てつけたのを見て、私はもう一度戒めの術を放った!
 雷の一撃により弱った魔獣と、凍てつき身動きがとれなくなった魔獣は、今度こそ漆黒の鞭に絡め取られ、低いうなり声をあげる。

「雷王ライデンよ! 汝が勾玉を使役し給へ! 雷の怒りし鉄槌を我が手に!」

 私が二匹の魔獣へ向けて翳した両手に、徐々に雷の力がたまり始めた
 先刻使ったものとは威力が違う、もっと強力なもの。

 そこは、天井まで吹き抜けになった造りの大部屋だった。
 上を見上げれば、抜けるような青空が広がっている。
 私達の前に現れたのは、四つ足の魔獣が三体。全身が真っ黒
 なのに対して、青い鬣が異様で、不気味な双尾が特徴の魔獣だった。

「右の二体、任せたぞ」
「人使いが荒いなぁ……」

 私の文句に一つ微笑んで見せると、一番左の魔獣へ向かって赤斗が駆けだした!
 赤斗がそいつと戦っている間、他の二匹を彼の方へ行かせてはならない。 
 早くも牙と剣で牽制し合う赤斗と魔獣。他の二匹はしかし、攻撃の思念を自分たちへ送っている私に、意識を集中さ
せていた。

「罪と罰を与えよ 破神ハデス その戒め持ちて 罪を与えよ 罰を与えよ!」

 先日、光と仙雪を押さえつけるために使役した神術を放つ!
 本来はこの様に、攻撃の意志をもって使うのが神術の正しい使い方なのだ。
 私の左手から生み出された漆黒の鞭は、真っ直ぐに二匹の魔獣へ向かい、果敢にもそれに逆らおうと牙をむいた魔獣の身体をいとも容易く絡めとった!
 ぎり、と力強く締め付ける鞭に抗う魔獣。
 身動きが取れなくなったようだ。これでじっくり攻められる。
 こういう類の魔獣は、すばしっこいと相場が決まっているのだ。
 攻撃しようと神術を使役したところで、赤斗の方に逃げられてしまっては、ごめん、ではすまない。
 まずは動きを止めて、一網打尽にする。それが魔獣退治の基本だと、赤斗に習った。
 しかし。



ばちいいいいいいいいいっっっ!!!!



「……げ」

 そんな私の思惑とは裏腹に、魔獣の一方が戒めを打ち破り、私へ猛進してきた!
 早口に術言を唱えつつ、向かってくる魔獣をやり過ごす!
 参ったか! 私は小柄な分、人よりも素早く動けるんだ! ちびでもいいことがあるんだぞ! 体力ないけど!
 ……なんだか悲しくなってきた……。
 私にやりすごされた魔獣は、器用にもブレーキをかけて体を反転させると、すぐにまた私へ向かってくる!

「おっとぉ!!!」

 今度は魔獣の身体を支点に上方へ飛び、馬跳びの要領で難を逃れる。
 着地する瞬間、再び私へ向かってこようとする魔獣へ向けて、

εイプシロン!!」

 雷の印を結び、術の発動力である神語を紡ぐ!
 弾丸と化した雷は、魔獣の体に突き刺さり、魔獣はたまらず咆哮を上げた!
 さらに、いつの間にか戒めを破り、私の背後から迫ってこようとしていたもう一匹の魔獣へ向き直る!

ζゼータ!!!!」

 今度は水の印を結び、ためらいなく放つ!
 結晶が魔獣の足を地へ凍てつけたのを見て、私はもう一度戒めの術を放った!
 雷の一撃により弱った魔獣と、凍てつき身動きがとれなくなった魔獣は、今度こそ漆黒の鞭に絡め取られ、低いうなり声をあげる。

「雷王ライデンよ! 汝が勾玉を使役し給へ! 雷の怒りし鉄槌を我が手に!」

 私が二匹の魔獣へ向けて翳した両手に、徐々に雷の力がたまり始めた
 先刻使ったものとは威力が違う、もっと強力なもの。

εイプシロン!!」
 
 開放の言葉を合図に、両手にたまっていた雷撃が魔獣へ襲い掛かった!
 文字通りの雷の雨である。これは流石にひとたまりもない。



ぐがあっん!!!!!



 建物は壊れてしまうのではないか、と心配するほどの轟音を上げて、魔獣へ雷の雨が降り注いだ!
 もうもうと上がる砂煙が晴れた時。
 そこに魔獣は存在していなかった。
 肩の力を抜いて、大きく深呼吸。

「……」

 両手を見つめる。
 大して手間取らなかったものの、最初の一撃で確実に魔獣の動きは止められたはず。
 光と仙雪の時の様に、手加減をしたわけではない。力が落ちたとも思えない。疲れているわけでも。
 魔獣が強くなっているんだろうか……?

「何を考えこんでいる?」

 両手を見ながらぼぅとしていた私は、我に返った。
 見れば、赤斗の方も片が付いたようで、すでに剣を収めている。
 怪我は、問う私に首を横に振った。

「なんかさ、妙に魔獣がしぶといと思って」
「何だ。お前もそう思ったのか」
「へ?」

 ぽん、と私の肩に手を置く赤斗。

「最初は、俺の腕が落ちたのかと思ったが……。お前も魔獣への違和感を感じていたのならば、違うようだな」
「きゃぁっ」

 そのままぐいと身体を引かれ、赤斗の方へ倒れ込む。
 私が口を開き、文句を言うよりも早く、赤斗が私の耳元で小さく囁いた。

「何か、いる。そいつがこの魔獣共に何かをしたのだろう」

 驚いて彼を見る。

「視界の端にちらっと人影を見た。おそらくは、二人」
「……人がいるのは当たり前だとも思うけど……。一応ここ、観光スポットだし、学者の出入りも」
「そいつらが……あんなところにいるか?」

 と、赤斗が示したのは、十メートル以上はあるだろう高さの位置に設置されている獅子を模した石像。
 この部屋は吹き抜けなので、天井からするする降りてくるのは無理だろうし、かと言ってあんなところへ伸びている道があるわけもない。当たり前だが、ジャンプしたり踏み台に乗って届く高さでもないのだ。
 ……これらは全て、ヒトだったら、という前提の上での仮設なんだけど。

「どんな感じの奴?」
「はっきりとは見ていないからな。何にせよ」

 言葉の途中で赤斗が私の身体を離す。
 彼の視線を追うように、私たちが入ってきたのとは反対側へ伸びる通路へと視線をやれば。

「あまり、いい感じはせんな」
「……第二陣かな」

 肩を落としながら私は呟いた。
 
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