砂の王国-The Chain Of Fate-

ソウ

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一章 獣化ウイルス

1-9 言霊

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「……ん……」

 何度か瞬きをして……身を起こした。
 いつの間にか、眠ってしまったらしい。
 外を見ると、もう真っ暗だ。詳細な時間は分からないが、おそらく晩餐会が開かれている時刻にはなっているだろう。

「あれ?」

 窓の外、木に見慣れない鳥がとまっている。緑と赤、それに橙も入っている彩色豊かな……というか、極彩色と呼ぶにふさわしい色の鳥だ。

「蘭……しかいないよねぇ」

 それは、希亜が言霊を送る時によくよく使う、ペットの蘭。こんな派手な鳥はそうそういるものではないし、何より、砂漠に住まう天然の鳥ではない。
 雛から育てているらしいので、見事に適応してしまったらしいが本来であればもっと西の方に住む鳥だとか。
 ベッドから下りて、窓を開けてやると、パタパタと入ってきて私の肩に止まった。

【サキヨミノケッカ。マツモノハマギレモナイシ。カイヒホウハマダフメイ。トニカクコレカラモウラナイヲツヅケルワンv】
 
 ……言霊だから仕方がないんだけれど……語尾まで真似てくれる必要はないんだよね……
 何度聞いても慣れないものである。

【ソレトン】

 少しの間を置いて、再び言霊を続ける。

【“サカラルル メグリアイ”ハ、スナワチ“デアワナイ”コト。ヒトニアワナイコトヲサス。コレニキヲツケテンv】
「何ですって……」

 巡り会いに逆らう、というのを“出会った者に逆らう”と解釈していたが、どうやらこれは間違いで。
 “出会うことに逆らう”、つまり、“出会わない”ということだったらしい。
 謁見を控えさせると赤斗が言っていたが……少々まずい。

「有難うね、蘭。私からの言霊を入れるから、ちょっと待ってね」

 私は、肩にとまる蘭の頭に手をかざし、目を閉じた。
 頭の中で言霊を文字として表し、それを蘭の呼吸、精神と同調させて欄の意識へ送り込む。

(セキトヘノホウコクハ、エッケンヲヒカエサセルシダイダッタガ、ヨテイヲヘンコウスル。アスノヒルマエニハカエルカラ、オヒルゴハンヨロシク)
 
 一通りの連絡を吹き込むと、蘭をそっと撫でてやる。
 一度きょろきょろと辺りを見回してから、蘭は再び窓の外へ消えて行った。
 それを見送り、窓を閉める。
 さて。

「……赤斗のところに行かないと……ね」

 色々な意味で気乗りはしないが、すぐに報告に行くという約束をしてしまっている。
 行かねば後が怖い。

 いくら砂漠、いくら城内とは言っても、夜は結構涼しい。
 常日頃身に着けているストールじゃ、薄いがないよりはましだろうと思い、椅子にかけてあったストールを羽織って部屋を出る。
 シン、と静まり返り、蜀台にともされた灯りを頼りに歩いていくが、なんとも心もとない。
 
「……むぅ……」

 実を言うと……私は夜の神殿とか、王宮とか。静かで暗い場所というものがあまり好きではない。なんというか……何か出てきそうで……。
 それこそこんな回廊なんて勘弁してほしいのだが。

「でも、ここと通らないと、赤斗の部屋へいけないんだよね……」

 溜息。
 自然と独り言が多くなる。
 暗闇の中、私宮への回廊を自分の足音を聞きながら歩いていく。途中、大広間へ抜ける道の方から華やかな音楽と、人々の気配を感じた。おそらく、緑陰が言っていた晩餐会だろう。
 もしかしたら赤斗はそちらにいるのかもしれないが、好き好んで城のお偉いさんたちの前に姿を出したくはないし、貴族の女たちと会うのもごめんだ。
 それに赤斗は、意味のある酒宴の席ならともかくとして、特に意味のない晩餐会やパーティーといった社交場が嫌いらしい。 
 もうひとつおまけに、長年の付き合いというか、直感というか。
 それが赤斗が部屋にいると告げている。とにかく赤斗の部屋へ行こうと、いつの間にか止まっていた足を再び動かし始めた。
 足早に回廊を歩き、見えてきたのは薄っすらと光る蜀台と、2人の兵士。

「世流様ですか」

 兵士の一人が明るい声をかけてきた。
 まだ、私からは明かりのある方に立っている二人の姿がぼんやりとしか見えなかったのにも関わらず、はっきりと名を呼ばれて驚く。
 近づくと、声をかけた方の兵士は永。昼間会った、赤斗についていた従者の一人だ。

「よく分かったね」
「世流様の髪は、暗がりでもよく見えますからね」

 ふむ。そう言われると、悪い気はしない。

「それにしても大変だね、永。昼夜問わずこき使われて」
「それだけ王子から信頼されているということですから」
「休むときは休むのよ? 倒れたら、治してあげるけどね」
「そうならないように気をつけます」
 
 どうぞ、と言われて私は寝所のある私宮の回廊へ足を踏み入れた。
 ……ここからがまた、一段と怖いんだよね……。
 王族は夜出歩かないし、晩餐会とかの類があるときは、必ず兵士が部屋前まで付き添う。
 そんなわけで、ここからの回廊はまったく明かりがなく真っ暗。
 各部屋の前には兵がいることにはいるが、ほとんど明かりはないし窓もない。一応、盗賊に入り込まれにくいようにということらしいが、ここを真夜中に歩く者のことも少しは考えて欲しいものである。

(……普通の人はこんなところを真夜中歩かないか……)

 心の中でつっこみを入れ、溜息をつきながら歩いていく。
 いつもはそうでもない赤斗の部屋までの道が、やたらと遠く感じられる。
 できるだけ、何も考えないようにと無心に足を進め……。

コツコツコツ……カッカッカッ……コツコツ……カッカッ……

 ……気のせいであって欲しいんだけれど……足音が増えている。

(盗賊さん……なわけないよね。王族にしては足音が少なすぎるし……じゃ……ぁ……)
 
 背中を、冷たいものが流れた。
 幽霊とか霊魂とかいうものは私は肯定派である。けれど、足音つきというのはちょっと……。
 そうこうしている内に、足音は私のすぐ後ろまで近寄ってきていた!
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